8-146 思わずスキップ
開いているのは鎮の西国、中の西国、真中の七国だけ。他は全て、シッカリ閉ざされている。
ココは中の東国、大貝山の統べる地。
外へ出るには神の御業を、二つも壊さなければナラナイ。人と妖怪の子には逆立ちしても、そんなコトは出来ない。
里でも村でも国でも、神の御坐す地は閉ざされている。妖怪の子が腹ペコってコトは、食らい尽くしたか追い出されたか。
神は人の願いから、現れ出られる。神が御隠れ遊ばした地は多いが、これら妖怪の子が生まれた地は同じ。戦に勝ちたい、奪い尽くしたい。
お願いします、神様。強く望まれ、現われ出ればナント、願いが違った。
食べ物が欲しいなら、御饌津神。稲の実が欲しいなら、倉稲魂神。軍神を望みながら、何だ! 願いが違うなら他を当たれと、御隠れ遊ばした。
「ヴゥゥ。」 ハラヘッタ。
「ヲォォ。」 クイテェ。
神の御力により守られた地には、決して入れない。
「またか。」
「モトさん、怖い。アレなぁに。」
ヨヨが駆け寄り、モトに強く縋りつく。
「アレらは合いの子だ。人と妖怪の。」
「ヨヨと違う、ヨヨだけ違うの?」
ヨヨの頭を撫でながら、モトが屈む。それから解るように、優しく語り始めた。
ヨヨと同じ妖怪の子は、他にも居る。会岐のミイ、加津のイイ、大石のムゥ。
みんな人を守るために生まれた、良い妖怪の子だ。もう少し経ったら、会わせよう。きっと楽しいよ。
ヨヨたちはね、社の児だ。生まれて直ぐタップリ食べて、グッスリ眠った。国守が守りながら、慈しみ育てる。だから違うんだよ。
モトの話を聞いて、ヨヨがニッコリ笑った。ギュッと抱きつき、頬をスリスリ。
人を守るために生まれたのが、良い妖怪の子。
もし人を食べたら、ヒイやフウのように殺される。そうならないように生まれて直ぐ、母さんから引き離された。
あの時は、とっても悲しかった。お腹も空いてたし。
でも、今は違う。引き離されて良かった。美味しいシシ肉や小熊の肉を、お腹いっぱい食べられたモン。
人を襲おうとか、食べようとか思わない。みんな良い人だし、手を振ってくれる。食べるならシシか熊。とっても美味しいヨ。
「モトさん、ヨヨね。大きくなったら、千砂の国守になる。」
「そうか、それは良い。」
「うん、いっぱい教えてね。」
「覚える事、多いぞ。」
このまま真っ直ぐ育って、千砂の皆に受け入れられる、良い妖怪になってほしい。
いくら長生きでも、私はヨヨより早く死ぬ。そうなった時、困らないよう繋がりを。田や畑の手入れを覚えたら、社の事を教えよう。
ヨヨは妖怪の子、どんな力か分からないが、見えるのだから有るハズ。きっと多くの人を救うだろう。
代わる代わる、片足で軽く跳ぶヨヨ。手を繋いで、優しく見つめるモト。知らない人が見れば思うだろう。仲の良い親子だな、と。