8-145 こりゃ男だ
「頭でたぁ。いき吐けぇ。」
・・・・・・ハァァ。
「吸えぇ。」
スゥゥゥ。
「息張れぇ。」
他の子はヌルッと出てきたのに、ムゥは違う。産みの苦しみに耐えながら、脂汗をダラダラ。息んでも出てこない。
「お婆。」
「肩だ、肩が引っ掛かってる。こりゃ男だ。」
ミカに問われ、言い切る産婆。
モトが肩を支えているので、暴れようが無い。四つん這いのまま、食い縛りだした。慌ててフタが娘の口に、厚く畳んだ布を噛ませる。
「シッカリするんだ、落ち着け。ミカさんは凄いんだ。言ったろう、『もう少しだ』って。」
腰を摩りながら、クベ。
「んん、んぐぐ。」
息絶え絶えに、娘が叫ぶ。『もう少し』と。
「ムゥ、聞こえるか。肩の力を抜け。」
頭のテッペンしか出てナイが、聞こえたらしい。グリングリン動いた。
「ほれぇ、息張れぇぇ。」
「ングゥゥゥ。」
スポォン。
素早くミカが頭を掴み、タッと外へ駆け出す。産屋には国守が三妖、産婆も居る。今は、この子だ。
「待たせたな、ムゥ。投げるぞ。」
穴の中に投げ込んでも、中には大熊。強く当たっても痛くない・・・・・・ハズ。
「ソレェ。」
臍の緒を付けたまま、大きく口を開けて飛ぶ。
熊は力を振り絞って、右の前足を上げた。スルリと交わし、脇から背へ。アッという間に、首にカプッ。ゴキュゴキュゴキュ。もの凄い勢いで吸い尽くした。
「バウさま! 熊か大シシを、生きたまま。」
「分かった。」
大石神の使わしめ、バウがタッと森の中へ。
ペラッペラになった大熊を、クルクル巻いて一呑み。思った通り、足りなかったようで。
「少し待て。獣を狩って、戻られるからな。」
ムゥがコクンと頷いた。
母を死なせないよう、抑えていたのだろう。良く見ると、頭も体も小さい。
「ファッフェフィファフォ。」 カッテキタゾ。
犬キックで仕留めた熊の背を咥え、バウが戻った。
「フォフェ。」 ソレッ。
大穴へ投げ込む。
ドンと降ってきた熊にムゥ、大喜び。
首筋に噛みつき、ゴキュゴキュ。ペラペラをクルクルして、もぐもぐゴックン。腹をポンポン。クワァっと欠伸をして、そのままゴロン。スヤスヤ。
「バウさま、ありがとうございました。」
頭を下げるミカ。
「満たされたようで、良かった。」
照れながらバウ、ニッコリ。