4-20 よくも、よくも!
「村に戻ったら、契りの宴を開くはずでした。その二人が、いくら待っても戻らず。中井の村へ使いを出しました。すると、品を受け取り、確かに見送ったと。」
声を震わせながら、絞り出すように言った。
「稲田、大田、草谷の狩り人に、話し、話して、共に探しました。そして、そ、して。熊実で、森でっ。かっ、変わりっ、はっ、果てた姿で。」
限界だった。
「お、オマエが! シマを、シマを穢したのか。」
「だったら何だ。」
早稲の村長が、せせら笑い、言った。
「よくも! よくも。」
殴りかかろうとした。が、狩野の狩り人、ヨシに止められた。
「まて、抑えろ。裁きだ、ここは社。堪えろ。」
そうだ。ヨシは子を・・・・・・。
「も、申し訳ありません。」
「良い。辛かろう。離れで休むか。」
「いいえ。シマと、アツのためにも。逃げられません。」
「ハッ、逃げる? グワッ。」
再び、頭を掴まれ、叩きつけられた。
「早稲の村長、答えよ。馬守の村人、シマとアツに、何をした。」
「いい娘だと、遊んでやろうと、そう思っただけ。それを、あの男。」
「あの男とは。」
「『シマに触るな』と。あんなの、どこがいいんだか。」
「あんなの。」
「ヒョロッとした、パッとしない男だ。アレは。」
「何をした。」
「村の外れで、馬の尻を射てやった。ギョッとした目で、見てきやがった。気の強い娘も悪くない。躾けてやろうと思ってね。掴もうとしたら、飛び出してきやがった。
何が『シマに触るな』だ。刺し殺してやったよ。それだけのこと。騒ぐほどのことじゃない。」
「続けよ。」
「娘が騒いだもんで。口に布を押し込んで、縛って。奪った馬に乗せたのに、あの馬! ビクともしない。だから、殺した。」
「ああ、覚えてるよ。あの目。娘、何か叫んでた。泣きながら。」
タツが楽しそうに言った。
「お、まえ。子だけじゃなく、娘も。」
シゲが、消えるような声で言った。
「それが何だ。悪いことじゃない。」
「タツ、悪いことだ。悪いことなんだよ。殺すのは。」
思わず、大声で言った。そして、すぐ。
「申し訳ありません。慎みます。」
「わかれば、良い。早稲の村長、続けよ。」
「娘を引き摺りおろして、躾けてやった。」
「躾け。」
「ああ、衣を裂いて、舐めっ、グハッツ。」
聞きたくなかった。気づいたら、早稲の村長の頭を掴み、思い切り! 叩きつけていた。
「シキよ。」
ハッとした。しかし、悔いてはいない。
「重ね重ね。」
「良い。」
「皆、箱籠の中に、見知った品はないか。」
一つ一つ、確かめる。しばらくすると、すすり泣きながら、ポツリ、ポツリと。
「この品は、・・・・・・、・・・・・・。」
エイは怒りより、悲しみに包まれた。深い皺が寄り、唇はギュッと結ばれ、目には涙が。
なぜ? どうして、そんな酷いことが。人を、何だと思っているの。泣かせて、苦しめて、楽しい?
シキだけじゃない。きっと、奪われた人、みんな。早稲の罪人たちを、懲らしめて。ううん。同じ苦しみを! そう思ってる。
「シゲ。早稲の村長に、言いたいことは、あるか。」
「はい。よろしいでしょうか。」
「良い。」
「村を出で立つ、少し前です。早稲の、村長の母、フウが死にました。」
「何だと! まさか、お前が殺したのか。」
世話をせず、コノに押し付けておいて。黙って聞きやがれ!
「倒れたと。フウの世話をしている、コノが知らせに来ました。フウが、どうしても伝えたいことがある。そう言っていると。」
「オマエが、オマエらが。」
堪らず。
「聞け! オレはな、村長。婆さんの、今わの言の葉を伝えに来た。『産んでしまって、ごめんなさい』そう言って、死んだ。苦しそうな顔をして、死んだ。」
シゲが大声で言った。




