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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
釜戸社編
66/1621

4-20 よくも、よくも!

「村に戻ったら、契りの宴を開くはずでした。その二人が、いくら待っても戻らず。中井の村へ使いを出しました。すると、品を受け取り、確かに見送ったと。」


声を震わせながら、絞り出すように言った。


「稲田、大田、草谷の狩り人に、話し、話して、共に探しました。そして、そ、して。熊実で、森でっ。かっ、変わりっ、はっ、果てた姿で。」


限界だった。


「お、オマエが! シマを、シマを穢したのか。」


「だったら何だ。」


早稲の村長が、せせら笑い、言った。


「よくも! よくも。」


殴りかかろうとした。が、狩野の狩り人、ヨシに止められた。



「まて、抑えろ。裁きだ、ここは社。堪えろ。」


そうだ。ヨシは子を・・・・・・。


「も、申し訳ありません。」


「良い。辛かろう。離れで休むか。」


「いいえ。シマと、アツのためにも。逃げられません。」



「ハッ、逃げる? グワッ。」


再び、頭を掴まれ、叩きつけられた。


「早稲の村長、答えよ。馬守の村人、シマとアツに、何をした。」


「いい娘だと、遊んでやろうと、そう思っただけ。それを、あの男。」


「あの男とは。」


「『シマに触るな』と。あんなの、どこがいいんだか。」


「あんなの。」


「ヒョロッとした、パッとしない男だ。アレは。」


「何をした。」


「村の外れで、馬の尻を射てやった。ギョッとした目で、見てきやがった。気の強い娘も悪くない。躾けてやろうと思ってね。掴もうとしたら、飛び出してきやがった。


何が『シマに触るな』だ。刺し殺してやったよ。それだけのこと。騒ぐほどのことじゃない。」


「続けよ。」


「娘が騒いだもんで。口に布を押し込んで、縛って。奪った馬に乗せたのに、あの馬! ビクともしない。だから、殺した。」




「ああ、覚えてるよ。あの目。娘、何か叫んでた。泣きながら。」


タツが楽しそうに言った。


「お、まえ。子だけじゃなく、娘も。」


シゲが、消えるような声で言った。


「それが何だ。悪いことじゃない。」




「タツ、悪いことだ。悪いことなんだよ。殺すのは。」


思わず、大声で言った。そして、すぐ。


「申し訳ありません。慎みます。」


「わかれば、良い。早稲の村長、続けよ。」


「娘を引き摺りおろして、躾けてやった。」


「躾け。」


「ああ、衣を裂いて、舐めっ、グハッツ。」


聞きたくなかった。気づいたら、早稲の村長の頭を掴み、思い切り! 叩きつけていた。


「シキよ。」


ハッとした。しかし、悔いてはいない。


「重ね重ね。」


「良い。」




「皆、箱籠の中に、見知った品はないか。」


一つ一つ、確かめる。しばらくすると、すすり泣きながら、ポツリ、ポツリと。


「この品は、・・・・・・、・・・・・・。」


エイは怒りより、悲しみに包まれた。深い皺が寄り、唇はギュッと結ばれ、目には涙が。


なぜ? どうして、そんな酷いことが。人を、何だと思っているの。泣かせて、苦しめて、楽しい?


シキだけじゃない。きっと、奪われた人、みんな。早稲の罪人たちを、懲らしめて。ううん。同じ苦しみを! そう思ってる。




「シゲ。早稲の村長に、言いたいことは、あるか。」


「はい。よろしいでしょうか。」


「良い。」


「村を出で立つ、少し前です。早稲の、村長の母、フウが死にました。」


「何だと! まさか、お前が殺したのか。」


世話をせず、コノに押し付けておいて。黙って聞きやがれ!


「倒れたと。フウの世話をしている、コノが知らせに来ました。フウが、どうしても伝えたいことがある。そう言っていると。」


「オマエが、オマエらが。」


堪らず。


「聞け! オレはな、村長。婆さんの、今わの言の葉を伝えに来た。『産んでしまって、ごめんなさい』そう言って、死んだ。苦しそうな顔をして、死んだ。」


シゲが大声で言った。


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