8-143 星になった二人
ガリガリに瘦せ細った人が、静かに横たわっていた。胸が上に下に動いている。生きている。けど、骨が浮いて。
どうしよう。胎の中に居た時は、とっても辛かった。お腹が空いて空いて動けなかった。でも、母さんの方が辛かったね。
「聞こえるかい、ハツ。この子はイイ。あの嬰児が、こんなに大きく育ったよ。」
ミカが声を掛けると、うっすら目が開いた。
「い、い・・・・・・。」
横たわったまま、ゆっくり手を伸ばす。
「イイです。産んでくれて、ありがとう。」
そう言って、手を握った。ハツの目から涙が溢れる。
クリクリした目に、ふっくら頬っぺ。柔らかい髪。だから細かく編んで、結わえているのね。なんて小さくて、美しいのかしら。
ねぇイノ、女の子が生まれたわ。名はイイ。首飾りを作らなきゃ。どんな貝を拾って戻るのかしら。楽しみね。
「この貝で、首飾りを作っておくれ。」
小さな巻貝を、ハツに。
ミカから受け取った貝を、そっとイイの額に当てる。目を閉じ、ゆっくり開いてニッコリ。スゥっと力が抜けた。
「母さん?」
死んじゃったの。ねぇ、そうなの。
「眠ったんだ。ほら、ごらん。笑っている。」
ミカに言われ、ジィィ。
「良かったぁ。」
ペタンと座り、ホッ。
「・・・・・・婆さま。首かざり、作らな、きゃ。」
ゆっくり起こして、背を持たせ掛ける。
痛くないように、辛くないように作られたソレは、ミカの手作り。妖怪の子を孕んだ娘たちを疲れさせず、しっかり食べさせるために作られた。
震える手で貝を摘み、獣の皮で作った紐を通す。
厚い巻貝を選んだのは、大きな穴を開けるためだろう。弱ったハツにも通しやすいように、一つでも首飾りに出来るように。
「イイに、渡し、て。」
首飾りを手渡すハツの目が、遠くを見ている。
「わかった。疲れたろう、ハツ。」
「えぇ、少し。」
横になって直ぐ、眠るように旅立った。
たった十二の娘が、言えないような恐ろしい思いをした。知らない男に、それも妖怪に襲われ、メチャクチャにされた。
『よく覚えていない』そう聞いた時、思ったよ。『良かった』って。
ドンドン膨らむ腹を、泣きながら摩る。そんな姿、とても見ていられなかった。
他の娘の、パンパンに膨らんだ腹がバンと張り裂ける度、怯えたね。『この中にも、妖怪の子が』って。
イイも妖怪の子だ。けど、他の子とは違う。案ずる事は無い。きっとミカが、良い子に育ててくれる。
「迎えに来たよ、ハツ。」
「イノ!」
「遅くなってゴメン。裁きが長引いて。」
「まぁ、ふふっ。」
「さぁ、行こう。」
二つの光が寄り添いながら天に昇り、星になった。ずっと遠くから、見守るために。