8-142 この子に罪は無い
見た感じ、三つ。
ミイもヨヨも幼いが、イイは落ち着いている。キョロキョロしないし、シッカリ話す。他の子と何が違うんだ? 満たされるまで食べさせ、ぐっすり眠らせた。
他に考えられるのは・・・・・・。
生まれて直ぐ、ミカに頭を掴まれたまま、大穴へ放り込まれた。
そうだ、あの時。投げ飛ばされたイイは、口を大きく開けていた。穴の中に獣が入れて有ると、わかってたんだ。
大石で生まれる子にも、しっかり話して聞かせれば、賢い子に。ヨシ、急いでクベに知らせよう。
「そろそろ戻るよ。」
「はい、ありがとうございました。」
何も聞かず、ミカはモトを見送った。それから湯場へ行き、洗う。イイは女の子。絡まった髪、あちこち土が付いたまま。このまま過ごすのは、誰だって嫌なハズ。
サッパリしたら、髪を結おう。
子の髪は柔らかい。一つに束ねたダケではピョンピョンする。そういえば、ミミの髪も柔らかかったなぁ。縄を編むように、髪も編んでた。
「うん、出来た。」
髪を頭の真ん中から左右に分け、結ぶ。片っぽを解いて、顳顬の辺りから下まで編み、結ぶ。もう片っぽも同じように編んで、クルクル巻いて纏める。
花で染めた細長い紐で結べば、出来上がり。
久しぶりに結ったが、上手く結えた。子らしくて似合っている。
「イイ。これからコレを、額に当てるよ。」
イイが眠っている間に港へ走り、ミカが選んだ巻貝。そっと掌にのせ、見せた。
生まれた子のために貝を拾いに行けるのは、その子の父だけ。ミカは父では無いが、イイは加津の子。他の子と同じように、首飾りを贈りたい。
「わぁぁ。」
小さくてクルクル、中は違うね。くれるの? 嬉しい。
「子が生まれて直ぐ、父が港へ走り、初めに目についた貝を拾う。嬰児の額に置いて願い事をしたら、母が首飾りにするんだ。それを御守りにして、ずっと身に着けるんだよ。」
厚みのある白くて小さな巻貝を、そっとイイの額に当てる。『人を食らわない、優しく賢い妖怪に育ちますように』と、心から願って。
「母さんに会いに行こう。」
「会えるの?」
「あぁ、会える。この貝に紐を通して、首飾りを作ってもらおう。」
「わぁい。」
ピョンピョン跳ねて、大喜び。
「ハツ、ミカだ。子を連れてきた。入って良いかい?」
入口の柱をコンコン叩いてから、声を掛けた。
「・・・・・・その子。」
イイを取り上げた産婆が出て来て、驚く。
「貝でな、首飾りを作ってほしい。穴は開けてある。頼めるかい?」
妖怪の子でも、ハツの子に違い無い。少しでもイノに似ていれば、慰めに。いや違う、加津で生まれたハツの子だ。目の辺り、似ている。
・・・・・・会わせよう。この子に罪は無い。
「さぁ、どうぞ中へ。」