8-141 他の子とは違う
うぅぅん、良く寝たぁ。ノビィ。ムクッ、トタトタ。見ぃつけた。
「ここから出して。」
イイが大穴の底から見上げ、ニコリと笑った。
「分かった。カノシシの肉が有るが、出てから食べるか? それとも」
「今、食べる。」
目を輝かせ、代わる代わる片足で軽く跳びながら、端へ移った。
死にかけの子鹿を下ろすと、素早く首筋に食いつきゴキュゴキュ。頭からクルクル巻き、パクリ。モグモグ、ゴックン。幸せそうに、腹をポンポン。
暫く休んでから、見上げて言った。
「ミカさん、ありがとう。とっても美味しかったです。」
ニコッ。
「それは良かった。梯子、上れるかい?」
縄と太い木の枝で作った梯子を、パッと広げて見せた。
アレが梯子。縄を持って、木に足を乗せて上がったり下がったりスルんでしょ。胎の中で聞いたモン、知ってるよ。でも、上がれるかなぁ。少しコワイな。
「ヨシ分かった。少し待ってろ。」
「はい。」
「どうする。」
モトがミカに問う。
「オレ、下に降ります。」
「止めとけ、ミカ。食われるぞ。」
「小鹿を食べてポンポンしました。腹も心も、満たされているハズです。」
その通り。イイは満腹、チョッピリおねむ。父が誰か知らないが、ミカでは無いと分かっている。
母を励まし続け、己を救ってくれたミカ。お腹が空いて泣いていた時、『殺す気は無い』『村では育てられない』と、ハッキリ言った。
『腹ペコなんだよな、少し待て。たらふく食わせてやるから』とも。
イイはミカの事を、『大熊の肉を食べさせてくれた、優しい小父さん』だと思っている。そのミカが『少し待ってろ』と言った。
だから、そんなに待たされない。そう考え、ワクワクしながら待っている。
「けどなぁ。」
「イイは賢い子です。初めて話した言の葉、思い出してください。ミイは『お腹すいた』、ヨヨは『出して』、イイは『ここから出して』です。」
「確かに、賢いな。」
カノシシの肉が有る。出てから食べるか、それとも。で直ぐ、『今、食べる』と。モリモリ食べて、ポンポンしてから言った。『ミカさん、ありがとう』と。
ミカの声、顔を覚えていた。お礼を言った。『とっても美味しかったです』とも。梯子を上れるかと聞かれ、少し考えてから、頭を横に振った。
明らかに他の子と違う。とても賢い。
「コレは使わず抱えて、闇の力で上がります。」
梯子を置き、ニコリ。
「・・・・・・分かった。」
ミカが大穴に飛び降り、屈んでイイの頭を撫でた。裸ん坊のイイに布を巻きつけ、抱きかかえて戻る。
「モトさん、こんにちは。」
ミカに抱かれたイイが、ニコニコしながら言った。
「こんにちは、イイ。」
ニッコリ笑って、ナデナデ。