8-139 助かったのですね
ミイの次に生まれたのが、千砂のヨヨ。
頭が出て直ぐ、モトに引っ張り出された。そのまま産屋を飛び出し、走る。
千砂の人は驚いた。頭を掴まれた嬰児が、泣きながらブラブラ揺れているのだ。当たり前である。
ヨヨは死にかけの大猪を入れた大穴に、勢い良く投げ込まれた。
ピタっと泣き止み、サササ。首筋にカプッと食らい付き、ゴキュゴキュ。ピラピラをクルクル巻いて一呑み。
立ち上がって穴の端まで歩き、腰を落として幸せそうに、腹をポンポン。暫くしてスヤァ。
丸一日後に目覚め、『ヴォォ』と吠え哮る。
直ぐに、死にかけの大鹿が投げ込まれた。で、同じようにゴキュゴキュ。クルクル巻いて一呑みし、トタトタすとん。幸せそうに腹をポンポン。ウトウト、スヤァ。
丸一日後に目覚め、『ヴォォ』。
死にかけの小熊を投げ込まれ、ゴキュゴキュ。クルクルごっくん、トタトタすとん。腹をポンポン。ウツラウツラして、スヤァ。
丸一日後に目覚め、見上げて言った。『出して』と。
満たされたままグッスリ眠り、目を覚まして直ぐ満たされれば、人の子と変わらないと判った。驚くほど食べるが、賢くて良い子である。
因みにヨヨは猪肉、鹿肉、子熊の肉が大好きな男の子。
「イイは。」
「まだ寝てる。」
ヨヨの次に生まれたのが、加津のイイ。
妖怪の子の扱いが判ってから、はじめて生まれた子。そろそろ起きるハズ。哮ったら投げ込めるよう、穴の側に大猪を転がして有る。
・・・・・・ニコッ。
「ソレェ。」
ミカとモトが、死にかけの大猪を大穴へ。
ドスンと音がして直ぐ、ゴキュゴキュ聞こえた。見下ろすと猪の首筋に食らい付く、イイの姿が。
飲み干すとクルクル丸め、ごっくん。トタトタ歩いて、ストン。幸せそうに腹をポンポン。アクビしてから、スヤァ。
「静かだな。」
ミカが呟く。
「鳴く前に、満たされるまで食ったから。かな?」
そう言って、モトが笑った。
妖怪の子の哮りは大熊のよう。妖怪でも驚くのだ、人には聞かせられない。
六人のうち二人、死なせてしまった。一人は、あと少しで生まれそう。
三人は酷く弱っているが、まだ生きている。ゆっくり休んで、健やかになってほしい。
会岐、大石、加津、千砂の他でも、同じ事が起きている。社を通して聞く限り、良くない。
ミイとヨヨの話は、残さず伝えた。同じようにすれば、きっと助かる。そう信じて。
生きてくれ。
せっかく助かったんだ。幸せに暮らして、笑っておくれ。
死んでしまった人も、心の底から願ってるよ。きっと。なぁ、ミミ。
・・・・・・ニコッ。
「ソレェ。」
わぁい、お肉。大鹿だ!
ゴキュゴキュ。うぅん、美味しい。クルクル、アァン。ゴックン。ふぅ、食べた食べた。
トコトコすとん、ポンポン。幸せだなァ。ムニャムニャ、スヤァ。