8-138 取扱注意
「・・・・・・寝たか。」
「あぁ。」
モトとミカが見合い、頷く。
人と妖怪の合いの子は、判っているダケで六妖。千砂と大石に二妖づつ、加津と会岐に一妖づつ。
初めに生まれたのは、大石のヒイ。
産声を聞いた娘が、祈るように言ったのだ。『抱かせて』と。直ぐ引き離せると思った。しかし・・・・・・甘かった。
アッと言う間に乳に吸い付き、ゴキュゴキュ飲み干したのだ。ペラッペラになった母を、頭からクルクル巻き出す。
我に帰った加津の国守、ミカが叫んだ。『首を押さえろ』と。
大石の国守クベが、両の手で首を。会岐の国守フタが膝で尻、両の手で胴を押さえた。妖怪の子の頭に、ミカが拳を振り下ろす。繰り返し、繰り返し。
石を掴んで産屋に飛び込んできた、千砂の国守モトが加わる。モトから石を受け取り、二妖で叩き割って殺した。
次に生まれたのが、千砂のフウ。
産声を聞いた娘が『抱かせて』と。ハッキリ断ったのだが、遅かった。アッと言う間に乳に吸い付き、ゴキュゴキュ飲み干したのだ。
ペラッペラになった母から離れたのを、モトがガッと掴む。力を付けた妖怪の子、手強いなんてモンじゃない。腰を掴んだまま、なんとか押しつけた。
直ぐに首をミカ、背をフタが押さえる。クベが大きな石を両の手で掴み、嬰児の頭に振り下ろした。
その次に生まれたのが、会岐のミイ。
生まれたら直ぐ、何を言われても引き離す。そう言い聞かせたのが良かったのか、引き離す事は出来た。しかし、直ぐに判る。死んだ獣より、母を求めるのだと。
飢えた嬰児が、物凄い勢いで暴れる。
四妖がかりで押さえつけ、フタが叫んだ。『クゥさま! 何が獣を、殺さずに』と。
会岐神の使わしめクゥは元、狩り犬の隠。長らく神に御仕えし、逞しくなった。つまり、狩りなどオテノモノ。
ザッと森に入り、カプッと咥えて産屋の前へ。
今にも死にそうな鹿を見せられ、涎をダラダラ。
目を輝かせながら勢い良く、首筋に食らい付きゴキュゴキュ。飲み干されペラペラになった鹿を、クルクル巻いてから一呑みして『ムゥゥ』。
足りなかったようで・・・・・・。
クゥが急いで、若い猪を狩って戻る。すると、嬉しそうにパァッ。
ガブッと食らい付き、ゴキュゴキュ。ペラペラをクルクルして一呑み。産屋の柱までトコトコ歩き、腰を下ろして幸せそうに、腹をポンポン。
寝ている間に大穴を掘り、移した。
眠ってから丸一日して、目が覚める。パチクリしてからキョロキョロ。暫くしてから、『ムゥゥ』と鳴いた。
急いで、死にかけの大猪を投げ落とす。するとゴキュゴキュ飲み干し、クルクル丸めて丸呑み。端まで歩いて腰を下ろし、幸せそうに腹をポンポン。
眠ってから丸一日して、目が覚める。鳴く前に、死にかけの大鹿を放り込んだ。
直ぐにゴキュゴキュ、クルクルごっくん。暫くしてスヤスヤ。
眠ってから丸一日して、目が覚める。スクッと立ち上がり、見上げて言った。『お腹すいた』と。
満たされるまで食べてグッスリ眠ると、一つ年を取る。三度繰り返すと、落ち着くと判った。
その気は無さそうだが食らう、かもしれない。だから人から離し、社で育てている。
二度『ムゥゥ』と鳴いたミイは、食いしん坊な女の子。熊肉も食べるが、鹿と猪の肉が大好き。