8-135 浅木の力
「ハァ。悦、采、大野、光江、安。何れも闇が渦巻く、ヒトデナシの吹き溜まりじゃないか。」
浅木の長が頭を抱える。
「言い出したのは悦のシュウで、動いたのは大野のカズ。采のユリ、光江のマツ、安のミエが加わって、こうなったと。」
溜息を吐きながら、浅木の祝。
五人が手を組み、耶万に滅ぼされた国の生き残りを集めて、攫って売っていた。娘や子を、奴婢として。
シュウ、ユリ、ミエは子を攫い逃げたが、捕らえられた。
中主、菜生、中多の里長から痛めつけられ、隠れ家や犯した罪などを申し立て、死んだ。
隠れ家や近くから見つかったヤツらも、同じように死んだ。
生きたまま、引き渡してほしかった。とはいえ、気持ちは解る。奪われたのだ。殺されたのだ、二度も。
大野のカズは逃げ出した子を追いかけ、早稲の人に見つかる。
子を離さなかったので矢を射られ、倒れた。そのまま捨て置かれ、獣に食われて死んだ。
大野のガガは釜戸山の地で子を攫い、捕らえられた。
裁きを受け、タマと根を切り落とされる。生きたまま送られるのは、浅木でも裁きを受けさせるため。
光江のマツは、まだ生きている。
見た者、聞いた者、証も押さえた。キッチリ裁いて、同じ痛みと苦しみを与える。決して逃がさない。
「そう難しい顔をするな。」
浅木神の使わしめ、炭。思いを残して死んだ魂が集まって、生まれた妖怪である。
「炭さま。」
浅木の祝が平伏す。
浅木の長には見えないし、聞こえない。とはいえ元、狩り人。つまり、カンが鋭く情報通。祝と同じように首を垂れた。
因みに、この男。良村のセンとシンを、早稲に居た頃から高く評価している。
「雲井の禰宜から言伝だ。『早稲のカツが漕ぐ舟に乗せられ、大野のガガが迷いの森に入った』と。」
乱雲山。雲井社の禰宜クラは、闇の力を生まれ持つ。人の世では暮せないほど、強い力を。隠の世で暮らしているので、人の世が閉ざされても困らない。
クラにとっては、隠も妖怪も縁ある者。人と居るより楽しく過ごせる。それはソレで、どうかと思うが。
「・・・・・・弱っている、ようですが。」
「『シブトイ男だから、生きたまま届けられるだろう』とも、聞いた。」
炭がニコリ。
悪しきモノに囚われた人には、ドロンとした闇が心と魂に絡みつき、ベットリついて離れない。清められない限り、決して。
「堕ちた人の多くは捕らえられ、死んだ。生き残りも、そう長く生きられない。」
浅木の禰宜がニコリ。
「たっぷり甚振ってから、叩き落としましょう。」
浅木の社の司も、ニコリ。
浅木の社の司には、耳の穴から闇を注ぎ込み、命を奪う力。禰宜には物陰など、闇から闇へ移動できる力。祝には心と体を切り離し、意のままに操る力。
何れも強い、闇の力だ。
広く商う豊かな国なのに、他から恐れられているのは、仕掛けられれば直ぐ、叩き潰せる力が浅木に有るから。