8-132 父さんと帰ろうな
言いたい事は言った。
このまま死んでも悔いは無い。でも、生きたいな。助かったんだもん、里に帰りたい。父さん、ありがとう。迎えに来てくれて嬉しいよ。
「キン。目を開けてくれ、キン。」
オレが悪かった。あの時、一人にしたから攫われたんだ。他にも狩り人が居たんだ、オレ一人残っても良かった。なのにオレは、キンを残して。
神様、お願いします。倅を、キンを助けてください。この子はまだ九つです。賢くて、とても優しい子です。九つまで育ちました。なのに、なのにオレが。
「あり、が、とぉ・・・・・・。」
「キン! 死ぬな、キン。」
目を開けてくれ。生きてくれ。頼む、頼みます神様。キンを助けてください。お願いします。お願いします。
「眠ったダケだ。胸を見ろ、動いてるだろう?」
シゲに言われ、慌てて確かめる。
「う、ごいて。」
「あぁ、生きてる。」
釜戸の裁きで、見聞きした事や身に起きた事など、残らず伝えたのはキンだけでは無い。
祝の『仕置場へ』を聞いて直ぐ、夜光のチイが静かに息を引き取った。
獣山に作られた掘っ立て小屋に、初めに放り込まれたのがチイ。三日の間、縛られたまま飲まず食わず。真っ先に救い出された幼子である。
助からないと思った。顔色の悪さ弱弱しさは、他の二人より酷かったから。毒が抜けたとはいえ、紫がかっている。
そんな我が子の骸に縋り、声を上げて泣き叫ぶイリ。娘を迎えに、夜光から飛んで来た父に、誰も声を掛けられない。
「イリ。」
夜光の長、ヤコが呟く。
チイは賢い子だ。ウチの娘が言い付けを破り、駆け出したりしなければチイは・・・・・・死なずに済んだ。チタを守ろうとして、人攫いに体当たりを。
あの男がチタの腕を放して直ぐ、チイが手を引いて逃げた。逃げて逃げて、チタを隠してから囮になって、それで捕まったのだ。
済まない、申し訳ない。攫われた上に縛られたまま。それも飲まず食わずで、狭い小屋に押し込められて。
早稲に救われた子が四人、釜戸山に入った。そう聞いた時、チイだと思った。思い込んだ。
『チイが見つかった。早稲の人に救い出された』
そう伝えた時のイリの、あの顔が忘れられない。矢羽の里に、釜戸山から使いが来た。だから違い無いと思ったんだ。
「娘さんの骸、どうする。」
カツに問われ、イリがドロンとした目で見上げた。
「・・・・・・どう。」
チイは色白で、いつもニコニコ笑っていた。こんな色じゃない。こんなじゃ無かった。
「骸を舟で運んで、里で葬るか。釜戸山で焼いて、骨を持ち帰るか。」
シゲに言われ、考え込んだ。
女の子だ。変わり果てた姿なんて、誰にも見られたくないだろう。チイ、父さんと帰ろうな。
「焼いてください。骨を拾って、連れて帰ります。」
ポロポロ涙を流しながら、震える声で言った。