8-131 糠喜び
嫌だ助けて、死にたくない。生きたいよ。お願い、許して。
見聞きした事、知っている事、全て話しました。残らず話しました。だから、お願いします。助けてください。
「釜戸山の灰が降る地で、大野のガガが犯した罪。その全て、決して許されない。死をもって償え。」
そ、そんな!
「と言いたいが、生かす。」
・・・・・・ホッ。
やった! 助かった。
オレは死なない、殺されない。生き残れる。生きてりゃ戻れる。暫く身を隠して、冬の間に四人攫おう。光江に放り込めば、それで良い。
けど、この足じゃ歩けない。
折れてはナイから、休めば歩けるハズ。舟を漕ぐダケならイイ。攫わず戻れば嬲られる殺される、死ぬのは嫌だ。
助かったんだ、ノンビリ待つさ。クックック。やっぱ甘いし、温い。
「大野のガガを縛り、タマと根を切り取る。栓を抜いて尿が出たら、筵で巻いて。出なんだら毒消しを飲ませ、縛って寝かせて引き渡す。早稲のカツよ、頼めるか。」
「はい、仰せのままに。」
「ナッ! 待っでぐれ。『生がず』っで、言っだ。」
「その通り。生かしたまま、次の裁きを受けさせる。」
早稲で葬られた腰麻の娘。名は分からないが、死んでしまった。だから代わりに、釜戸山で裁く。
人攫いは痛みをタップリ与えてから、火口に吊るす。女を弄んだ男は皆、タマと根を切る。一人でも殺せば、死なせる。
しっかり痛めつけてから、火口へ飛び込ませる。または動けなくなるまで痛めつけ、獣谷の仕置場に置き去りにして、生きたまま獣に食わせる。
直ぐに死ねると思うな。
浅木へ送らなくても良いなら、タマと根を切り落としてから獣に食わせる。生かすのは、社を通して言われたから。『浅木でも裁くから、生きたまま送れ』と。
「お、オレばぁ。」
「子や娘を、攫おうとした。子を三人攫って、縛ったまま殺そうとした。娘を一人、死なせた。」
「じなぜだのばぁ、だじが、ごじまのだ。」
その通り。死んだ娘は、腰麻のアイ。四姫アキの裏切りにより、弟を連れて逃げるも捕まった。
「腰麻。光江や悦の東北にあった、耶万に滅ぼされた国の一つ。」
「確か賢い正妃が、子や娘を森の近くに隠したと。」
良村のシゲと早稲のカツが見合い、頷いた。
「ぎだのむずめば、ごろじでない。だがら、だずげで。」
「娘を弄んだんだ。潰されても切り落とされても、痛めつけられても足りねぇよ。」
涼しい顔で、カツが言い切る。
「よく聞け、大野。テメェが殺そうとした子は、三人とも北の子だ。釜戸山の灰が降る地で生まれ、スクスク育った子だ。」
氷のように冷たい目で、シゲ。
「迎えに来た親がな、言ったよ。『殺してやりたい』って。」
東山のウエが、見下しながら言った。
「ア゛ァァ! じにだぐないぃぃ。」
ガガが頭を抱え、叫ぶ。
「仕置場へ。」
エイの声が、社に響く。