8-127 赤べこ?
鎮の西国から攫われ、耶万の大王に差し出された。
生き残りは三人。王の末娘ココ、九つ。長の娘ミア、八つ。兵頭の倅カセ、九つ。
他は、嬲り殺された。
話したがらないが、早稲のカツから聞いた話では、男は戦場へ。娘は弄ばれ、苦しみながら死んだ。
幼子は手足の付け根を砕かれ、引き千切られる。生きたまま捨てられ、獣に食われた。
見たくないのに見せられて、『死にたくなければ騒ぐな。何を言われても逆らわず、何をされても従え』そう言われ、心を折られたと。
「・・・・・・なんて事を。」
釜戸社の祝、エイがポツリ。
西国の人はオカシイ。なぜ、そんな酷い事が出来るの? 同じ人なのに、どうして。西にも良い人は居る。悪い人だけじゃナイ。でも、奴婢が。
早稲には『他所の』人は居るけど、奴婢は居ない。
良村の人や、隠れ里の人。早稲に残ったカツ、死んだタツもそう。みんな『早稲の他所の』人で、その生き残り。
タツは裁きを受け、獣谷で死んだケド。
「三人とも心の底から、戻りたくないようです。」
疲れた顔をして、守り長カイ。
「真っ直ぐ目を見て、言いました。『鎮の西国には、戻りたくない』と。」
悲しそうに、禰宜ロク。
「早稲のカツから言われました。『もし引き取り手が無ければ、シゲが作った村に。アイツになら任せられる』と。」
思いつめた顔をして、狩り長ゴン。
「鎮の三人と矢羽のオリは、裁きが終わるまで、釣り人の村に。」
祝、エイがキリリ。
『生きている事だけでも、親に』と言ったら、首をブンブン横に。それから『言わないで、伝えないで』と。
ここは中の東国。鎮の西国の子を引き取るなら、乱雲山が良い。国と国との話なら、雲井社にしか扱えない。
鼠神が仰った。『鎮の三人は、乱雲山が引き取る』と。従います。でも、浅木に裁けるの?
裁けるように、なったのかな。そうなら、ううん。お任せします。大蛇神の仰せだもの。
「大野のガガは、他にも罪を犯しているでしょう。獣山で見つかった子が話せるまで、待ちます。」
「ハッ。」
皆が平伏す。
「急ぎぃ。」
息を切らせながら、狩り人が飛び込んできた。
「申せ。」
難しい顔をして、エイ。
「志太、司葉、矢羽、夜光の長が釜戸山に入りました。司葉のミユが見つかり、妹ミヤを攫った男について語ったと。『右の顳顬に、古い矢傷が有る男に攫われた』と。」
「祝!」
社の司が叫ぶ。
「シロ、ロク。ガガにも有ったな。右の顳顬に傷が。」
「えぇえぇえぇえぇ。」
社の司シロ。赤く塗った、張子の首振り牛のよう。
「はい、ございました。アレは確かに、矢傷です。」
禰宜ロク。赤べこ、じゃない。伯父を横目に、シッカリはっきり答えた。




