8-126 子の命を守るため
「なぁゲン、オレ思うんだ。子を縛ったまま隠したの、南のヤツら。安、光江、大野、采、悦あたりだと。」
「そうだな。キツク縛ったまま転がすのは、安か光江くらいだ。大野も采も悦も、真似たんだろう。」
獣谷の隠れ里で、ゲンとシゲが話し合う。マルに止められているので、南へは行かない。大蛇にも止められている。
マルは大蛇の愛し子。大蛇は、はじまりの隠神。
マルの幸せが良村の幸せに繋がる。だからシゲは、ゲンにも伝えた。『良いと言うまで、南へは行くな』と。
南へ行かなくても、分かる事はある。獣谷の隠れ里は、祝辺の守に認められた里。木菟や鷲の目からイロイロと。
「南から上がるのはツライから、纏めて運ぼうと考えた。獣山を選んだのは、熊が出ないから。」
腕を組んだまま、ゲン。
人攫いは少なくても三人。一人は見張り、一人が攫い、一人は姿を隠して備える。
この地に来たのは、もっと居るハズ。盗まれた舟は、オレが知ってる限り五隻。帰りは川の流れに乗れるから、一人で四人は運べる。
娘を先に運んで、子は隠れ家に。シゲたちが見つけた他にも、どこかに隠されているハズ。その子たちは残らず、冬が来る前に南へ運ばれるだろう。モノとして。
「獣山で見つけた三人とも、一度は目を覚ました。ずっと寝てるが、抱き起せば水を飲ませられる。」
悲しそうに、シゲ。
子の命を守るため、茅野に運び込んだ。
あんなに酷くては、とても身が持たない。飯田の方が近かったが、寝かせたまま運ぶなら、川の近くにある茅野の方が良い。
「どこの子か、もう分かったのか。」
「男の子はキン、女の子はチイとミヤ。ミヤは姉と攫われたらしい。どこの子かは、まだ。」
「そうか。」
子らは肉付きが良く、柔らかくて良い衣を着ていた。だから豊かな里か、村から攫われたと思う。きっと親が探している。
釜戸山の灰が降る地なら、直ぐに訴えるだろう。『ウチの子が居なくなった』と。
「茅野社を通して、釜戸社に伝えてもらった。下調べと聞き取りが終わったら、祝人が呼びに来る。それまで待つよ。」
「なぁシゲ。カツが早稲に戻ったのは、知ってるかい。」
「らしいな。親になったって。」
「アイツが?」
タツも酷かったが、カツの歪みっぷりも甚だしい。そのカツが、子の親になったのか。
「カツが、どうした。」
「子を四人、早稲から連れてきたって。」
「へぇ。・・・・・・ヤツら攫った子を、早稲に隠したのか。」
「詳しくは分からん。けど舟寄せの辺りなら、隠せるだろう。」
「確かに、あの辺りなら。」
「シゲ。もし子が『戻りたくない』って言ったら、その時は。」
「ウチで引き取る。」
攫われ子は戦場に放り込まれるか、売られる事が多い。返しても、その親も奴婢なら、また。