8-125 詳しくは分からないが
「司葉から攫われた姉妹の、姉が見つかった。」
「それは真か。」
夜光の長が、志太の長に問う。
「真だ。ウチの狩り人が見つけ、里に連れ帰った。」
志太の長がニコリ。
「ココに来る前に、シッカリ確かめたよ。攫われた娘に違い無い。」
司葉の長もニコリ。
なんてコッタイ。他にも攫われた娘が、二人も居るのか。
川上には幾つか、里や村がある。風見が滅ぼした、三つの村の他にも。
・・・・・・にしても何だ。攫った子の口に布を突っ込んで、更に布を噛ませて結んだ? 逃げられないように木に縛り付け、子を残して離れた?
獣に食われる前に、他所へ運ばれて良かった。いや良くないが。攫った姉妹の一人を、それも幼子を残すか?
信じられない。人のする事か、いや違う。バケモノだ。
「ウチの狩り人に聞いたんだが、攫われた矢羽の子が、早稲の生き残りに救われたらしい。」
少し明るい声で、ヤコが話した。
志太も司葉も、畏れ川の西にある。夜光は東にあるので、狩り場も東。
矢羽と夜光は遠く離れているが、間に大きな川は流れていない。越えるのは山と、飛べば越えられる川だけ。
夜光の狩頭と、矢羽の狩頭の付き合いはソコソコ長い。はじめて狩りに出た時、森の中で出会った。
矢羽も夜光も隠れ里だが、二つの里には大きな違いがある。矢羽は釜戸山と結んでいる。
矢羽の里が在るのは兎原の西。つまり魚川にも、鳥の川にも出られる。
森の奥で狩るより、釜戸山が取り仕切っている大きくて、豊かな狩り場で狩る事が多い。
「釜戸山に連れてきたのか? 早稲が。」
「風見と結んだ、あの戦好きが?」
『信じられない』という顔で、ワタとイオ。
そりゃそうだ。早稲は戦好き、悪い噂しか聞かない。
見つけた子が攫われ子だと分かっても、兵として育てる。戦場に放り込む。それが早稲だ。
見つけたのは『早稲の他所の』人。早稲の人だが、早稲の人とは違う。早稲の人はセイの力で少し、良い人になった。
セイは思い込みが激しく、歪んでいる。
そんな娘に叩き直され、早稲の人は変わった。従わなければ生き残れない。もし逆らえば、死ぬ事になる。そう信じて疑わない。
「詳しくは分からないが、早稲に残った生き残りが死んだ長の娘と契り、早稲を変えたトカ。」
釜戸の裁きにより罰を受け、早稲に戻ったカツとヌエ。カツが大きく変わったのは、我が子ユユを見た時。
ユユの親として、恥ずかしくないように生きよう。そう思った。
ヌエは『甥か姪、ドッチだろう』くらいにしか、思わなかったが・・・・・・。
「でだ。その矢羽の子の他に男の子が一人、女の子が二人。釜戸社に託された。」
「なんだって!」
「確かか!」
ワタとイオが、ヤコに詰め寄った。
「あぁ、そう聞いた。」
三人は鎮の西国から攫われた子で、隠れ里の子では無い。しかし思った。『生きて戻った』と。