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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
釜戸社編
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4-18 溢れる思い

「エイさま、どうぞ。」


出で湯団子、二つ。食べやすい大きさ。つまり、小さい。


「ありがとう。いただきます。」


カプッと、控え目に。モグモグ、ゴックン。そして。


「おいしい。おいしいね。」


涙、ポロポロ。



「ど、どうし、ましょう。」


禰宜ねぎ、ロク。わかりやすく、うろたえる。


「お気になさらず。ロクさま。」


ナガがニッコリ微笑んだ。ああ、美しい。


「エイ、ゆっくり食べなさい。」


「うん。ねえ、父さま。」


「なんだい。」


「私、祝でいいの?」


「ん。」


「私、怒っちゃった。怒っちゃったの。」


「そうだね、怒ってたね。」


「うん。だって、だってね。あのね。」


ポロポロ、ポロポロ。涙が頬をつたう。


「もし、ね。釜戸山のね。人とか、犬とか、ね。傷つけられたら。そんなの、そんなの嫌! 嫌なの。」


「うん。」


「私ね、だからね、えっと、ね。」


「うん。」


「父さまぁ。」


ナガの胸に飛び込み、泣き出した。


「エイ、私の宝。私のすべて。」


優しく撫でながら、そっと。


「泣きなさい。泣きたいだけ。いいんだよ。」


おんおん泣いて、泣いて、落ち着いた。団子をきれいに食べてから、離れで顔を洗った。



「行こう、父さま。」


「行こう、エイ。」


ニッコリ笑って、社へ。




「おまたせしました。裁きについて、話しましょう。」


祝は忙しい。五つの子には、辛いことも多い。泣き出すなんて、初めてだ。川北のヤツら、酷かったからなぁ。



釜戸社を、エイさまを、何だと思っている! 頼るよ、そりゃ。


代々の祝には、火の声が聞こえる。凄いよ。聞こえないでしょう? 火の声なんて。それが聞こえる。でも、それだけ。


祝辺の守には、とても大きな力がある。霧雲山を守れるほどの力だ。しかも、清めの力だけではない。


木菟、鷲の目。力を持つ祝に、狩り人たち。中には、人ならざるものを従える守もいた。聞いた話だが。



恐れ多いが、言おう。エイさま、祝辺の守に比べれば、ただの女の子です。他の子と、そう変わりません。


だから、いいんですよ。きょうはもう、帰りましょう。たくさん食べて、出で湯に浸かって、ゆっくり休んで、ぐっすり眠りましょう。



「ロク、ロク。聞こえるか。」


ハッ、伯父さん。


「エイさま、少し休まれては。」




「どう、して。」


いっぱい泣いたから? そうなの、父さま? うぅぅん、違うみたい。笑ってるもん。


「禰宜よ、奥で休みなさい。」


ち、違います。私ではありません。


「では、始めましょう。」


社の司、シロ。アタフタする甥をそのままに、シレッと続ける。


「東山の国より、獣山を加えたいとの話。」


ああっ、またか。


「あの山は、皆の山。」


そう、大甕湖も、皆の湖。


「はい。その通りです。」


川北といい、東山といい、欲張るな!


「では・・・・・・。」




夜です。夜までかかりました。はぁ、よく働いた。


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