8-123 許せない!
大野のガガが攫ったのは、矢羽のオリだけでは無い。
目覚めた三人の子は皆、ハッキリと覚えていた。右の顳顬に、古い傷が有る男に攫われたと。
浅木に渡さなくても良いなら、チョン切ってから獣谷に捨てる。生きたまま、獣に食わせる。ドボンの刑では軽すぎる!
三人とも、一度は目覚めた。水を飲ませてもらい、虚ろな目で言ったのだ。名と、傷の事を。それからスゥっと、深い眠りに。
眠り続けている。けれど抱き起こして飲ませれば、ゆっくり飲む。
良村のムロが言った。『溜まった毒を出すには、水をタップリ飲ませるしか無い』と。
縛られたまま狭い所に押し込められると、体に悪いモノが溜まる。浮腫む、痺れる。だから子らは狭いのに、仰向けになった。それでも辛かったハズ。
口に布を突っ込まれ、更に布を噛まされ結んであった。手も足もキツク縛られ、紫色に。
『見つけるのが遅れたら、死んでいたと思う』と。『放り込まれてから、二日は経っている』と。
よく生きていた。生きていて良かった。心の底から、そう思う。
「許せない!」
そう言って、エイが口をギュッと結ぶ。
「もし、そう考えるだけで怒りが。」
ナガが、父の顔に。
「えぇ。」
サカが、伯母の顔に。
「さぁ、どうぞ。」
従兄の顔になり、ササ。エイの掌に一つ、サルナシの実を乗せた。
エイはナガの一人娘。愛しい妻が、命と引き換えに産んでくれた宝。『後添えを』と言われても断り続け、慈しみ育てている。
サカはナガの姉。男手一つで姪を育てる弟を、しっかり支えている。息子ササは、エイを妹のように思っている。ナガの次に、エイに甘い。
「い、たい。」
誰か頼む、冷やしてくれ。痛いし熱いんだ!
「たす、けて。」
色がオカシイ、腫れてる。アイツ、思いっきり踏みやがった。
『タマ潰されるダケで、許されると思うな』だと? 早稲の子じゃナイのに。何が『早稲のモン』だ。違うだろう、クソ!
覚えてろ、膝蹴りにして踏んずけてやる。早稲が怖くて人攫いが出来るか。ちょっと強いダケ、戦い慣れてるダケ。それなのに!
「うぅぅ。」
痛いよぉ。
「シッカリしろ。」
バシャンと、ガガの股間に水を掛けた。
「キッチリ裁きを受けさせる。」
南の地からワザワザ、こんな山奥に来て子を攫い、酷い扱いを。コイツは人か? いや違う。人の皮を被ったヒトデナシ。化け物だ。
釜戸山が取り仕切る狩場で、多くの子が攫われかけた。直ぐに捕まえ取り返したがコイツ、どれだけ攫った。どれだけ奪った、どれだけ殺した。
「引き渡すまで、決して死なせないからな。」
守り長カイが、冷たい目をして言い放つ。