8-121 子には見せません
カツに手招きされ、オリがタッと駆けてきた。頭をポンポンされ、ニコリ。それからジィィ
「大野のガガです。兎原でオレを攫った、悪いヤツです。コレと同じ傷が、左の脇腹にも有るって。耶万の兵から逃げる時、後ろから射られたって言ってました。」
額の傷を指さして、キリッ。
「ちがぁっ。」
オリが見上げている間に、素早くガガの臍の下を蹴る。小さく呻きながら静かになった。それから、ピラッ。
「有るな。」
「確かに。」
「違い無い。」
「お、れは、悪くなァァァァァァ!」
衣を足で戻してから、グッチャァ。抱き上げてから潰したので、オリは何も見ていない。
「早稲のモンに手ぇ出して、悪くナイだ? タマ潰されるダケで許されると思うなよ。」
一蹴り一グチャだけでもタイヘン。なのに臍の下を蹴られ、追踏みまで。結果、口から泡を吹いた。白目で!
「小屋で待ってろ。話が済んだら、直ぐに戻る。」
優しく下ろし、オリの頭を撫でた。
「はい。」
カツの目を見て二コリ。それからウエとキイに頭を下げ、小屋の中へ。
「オレ、川田のキイです。カツさん。子を四人、連れてらっしゃいましたが。」
気の所為か、内股に。
「兎原にも釜戸山の灰、降るだろう? だから釜戸山にな。他の子は残らず、親に返した。いま話せるのはココまでだ。」
「そうですか。」
「コイツ、頼めるかい。女の子が嫌がるんだ。オレはイイらしい。けど、男が怖いんだろうな。」
酷い扱いを受けたのか、見たのか。どちらにせよ、心に深い傷を負ったのだ。どう言えば・・・・・・。言の葉が出ない。
確か一人、早稲に残ったと聞いた。名をカツ。
子を攫ったのを、馬守と良村の人に見つかり、釜戸社に突き出され、裁きを受けたと。
生きて戻ったのか。
迷いなく踏み潰したが、子には見せなかった。髪を掴んで引っ張り上げたのも、子が小屋に入るのを確かめてから。
火口に吊るされて、生まれ変わったのか? 元は『早稲の他所の』人。その生き残り。早稲で生まれ育った人とは、何もかもが違うのだろう。
「解った、オレたちが運ぶ。」
ウエがニコリ。
「朝餉を食べさせてから、釜戸山へ向かうよ。」
カツもニコリ。
「なぁ、どう思う。」
舟を漕ぎながら、ウエ。
「慣れている。戦うのも、守るのも。」
舟に転がされたガガをチラ見して、キイ。
「そうだな。アッと言う間だった。」
サッと前から近づき、股間を蹴り上げながら奪い返す。言うのは容易いが、行うのは難しい。それを、流れるように遣って退けた。
どれだけ戦えば身に付くんだろう。良村の人も、守りながら戦える。・・・・・・早稲、どんな村なんだ?