8-120 急所はヤメテ
「わぁ、見て見て。」
「キラキラだぁ。」
「輝いてるね。」
キャッキャ言いながら、子が出てきた。
前の三人には、犬がピッタリ張り付いている。アレは狙えない。けど、あの子。一人だけ空を眺めて、惚けている。
腰を落として駆け寄り、子の口に丸めた布を突っ込む。そのまま肩に担ぎ、舟まで走る。投げ込んで押し出せば、流れに乗ってオサラバさ。イケル!
スササササァ。ガバッ。
「ん!」
カセが驚き、見開く。
「アァッ!」
音を立てずに近づいたカツ。カセを素早く抱えながら、ガガの股間を膝蹴り。前屈みになったガガの背に、振り回されたカセの両足が強く当たり、ドタッと倒れた。
それで終わり? いえいえ、カツですよ。
タツは、向こう見ずで愚かでした。カツは心が捻じ曲がっていて、物でも命でも何でも、掠め奪う事を好む。と同時に、奪われる事を酷く嫌う。それがカツ。
性根は叩き直せても、持って生まれたモノは矯正できません。
ガガはカツから、子を奪おうとしました。つまり、盗人ガガに何をしても許される。そう考えるのは当たり前。
「ヲイ、何しやがる。」
カセを抱えたまま、ガガのをグチャッと踏み潰す。
「ギャァァァァァァァ!」
両手で押さえ、ジッタンバッタン。
カセは前からカツに抱えられたので、頭は後ろにある。つまり今、何が起きたのか全く分からない。
口から布を引っ張り出して、ジトォ。ポイしたいけど、『これも証になるのかな』と、考え中。
優しく下ろされ、カツに頭を撫でられた。
「オリ、連れてけ。四人で入ってろ。オレが呼ぶまで、決して小屋から出るな。カナ、子を見張れ。」
「ワン。」 ワカリマシタ。
「はい。行こう。」
子らがトタトタ、小屋の中へ。カナもタッタ。
入ったのを見届けてから、悶絶するガガをギロリ。
「や、めて。」
ガタガタ震えながら、ガガ。
「アアァァ。」
右の鬟を掴まれ、堪らず手を上げる。カツは眉一つ動かさず、ガガの腕を後ろで組んでギリリ。それから歩けても走れないように、足を縛った。
「隠れてないで出てコイ。居るんだろう?」
カツが声を掛けると小屋の後ろから、東山の狩り人ウエ。立てかけられた舟から、川田の狩り人キイ。二人の狩り人が出てきた。
「早稲のカツだ。コイツ、他に何したんだ。」
「東山のウエだ。ソイツ、オレの倅を攫おうとした。」
「ドコの誰だか、聞き出せなかったのか。」
「あぁ、そうだ。」
「ワン! ワワン。」 カツサン! イイデスカ。
オリが話があるようで、ソワソワしています。
小屋の前でカナが吠えた。オリが顔だけ出して、こちらを見ている。
「コイツ、知ってるのか?」
カツに問われ、オリが大きく頷いた。