8-118 生きていたとしても
「頭、見てください。」
「この高さ、この感じ。獣に食われる前に、どこかへ連れ去られたか。」
木に縛り付けられても諦めず、ひたすら暴れたんだろう。幹に縄の跡が残っている。怖かっただろうな。近くの木に、熊の爪痕が残されていた。
タヤがミユさんを見つけて、里に連れ帰ってから二度、強い雨が降った。ってコトは・・・・・・。
いや、違う。襲われる前に救い出されたか、人攫いが戻った。そうだ、そうに違い無い。
「おや、志太の。」
「ケンです。司葉のワオさん。」
二人の狩頭が見合う。志太も司葉も、他とは結んでいない隠れ里。探られるのを酷く嫌う。
「司葉の娘さん、ミユさん。志太の里に居ますよ。」
「それは、どういう。」
ミユは十二だ、シッカリしている。姉妹で攫われた。ミヤがミユから離れるとは考え難い。この辺りで? いや、それより。
「ウチの狩り人が森で見つけ、連れ帰りました。ずっと眠っていたのですが、やっと目を覚ましましてね。」
怖い顔するなよ。まぁ、気持ちは分かるケド。
姉妹の他にも攫われたのか? 舟に乗せられた他の二人、知らない人らしいぞ。
「そうでしたか。ミユを助けていただき、ありがとうございます。」
川を下る舟の中から、縛られたまま水に飛び込んだと。水から上がって直ぐ、森の中に入って休まず、走り続けただと?
確かに、仲の良い姉妹だよ。けど・・・・・・いや違う。ミユならミヤのため、迷わず逃げる。助けに行く。
木に縛られて動けないってコトは、生きたまま獣に食われるってコトだから。
「とても弱っていて、動かせません。歩けるようになるまで、志太で預かります。」
「はい。よろしくお願いします。」
他にも知らない娘が二人、か。ミユが知らないなら司葉の娘ではナイ。川上にある里か、村の娘だろう。
里に戻らないのは、ミユとミヤの二人だけ。里長に言われて、しっかり確かめたから違い無い。
死んだと思ったが、一人は生きていた。もう一人は、どうだろうな。生きていたとしても、遠くに運ばれ今ごろ・・・・・・。考えたくない、そんな扱いを。
「志太から居なくなったのは、子が一人でしたね。」
「はい。ウチの末っ子が攫われました。」
狩りを教えに森に入って、少し目を離したら一人だけ姿を消した。聞いた時は驚いたよ。けど、オレでも守れない。手慣れてやがる。
近くに居たのに気付かなかった。犬でも気付かないって、何なんだ。こっそり餌を与えて、狩り犬を手懐けた?
「人攫いの中に、獣使いが居るようですね。」
険しい顔をして、ワオがポツリ。
「そうとしか考えられません。」
ケンが言い切った。
あの日、連れ出した狩り犬は合わせて五匹。一匹なら有り得るが、五匹とも利かないナンテ有り得ない。