8-115 泳がせよう
ま、マズイ。このママじゃオレ。・・・・・・戻らなきゃ、光江に。伝えなきゃ、北はアブナイって。
豊かだよココ。食べ物タンマリ、水もタップリ。子は丸いし、強く育ちそう。見た感じ女もイイけど、狩り人が多すぎる。
どうする、どうすれば逃げられる。ココどこだ。オレは今、どうなっているんだ。
分からない。頭に布袋を被せられて、手も足も縛られて動けない。息は出来るけど怖い。殺されるのか、死ぬのかオレ。
攫ったよ、覚えてナイくらい。殺したよ、覚えてナイくらい。死なせたよ、覚えてナイくらい。だから何だってんだ。
嫌いなのを虐げて、何が悪い。弱いのを甚振って、何が悪い。気に入られたきゃ好かれろ。生き残りたいなら、強くなれ。
「アレ、どうする。」
東山の狩り人、ウエ。
「オレのカンだけど、茅野に運び込まれた三人。攫ったの、アイツだと思う。」
茅野の狩り人、タイ。
「他にも攫って、他所に隠してるんじゃ。」
飯田の狩り人、スケ。
「二人は良村の長と、見つけたんだよな。」
川田の狩り人、キイ。
「あぁ。」
「そうだ。」
タイとスケが頷く。
釜戸の調べは進んでいるが、どこの誰の子なのか。どのように攫われたのか、全く分からない。救い出された子らは、三人とも死にかけている。言の葉も出ない。
『子が攫われた』『子が居なくなった』と言って来たのは、四つの隠れ里。司葉、志太、矢羽、夜光。
矢羽は釜戸山に、里の在り処を伝えている。しかし他の三つは、ダンマリらしい。
「逃がすフリをして、後をつけよう。」
「ウエ。気持ちは分かるが、殺しちゃマズイ。」
「オイオイ、決めつけるなよ。」
キイの目を見てニコリ。目は、笑ってイマセン。
ウエは東山では珍しい、平和主義者。戦に出ない代わりに、東山社を守っている。
それはもう真面目に、社の者よりキッチリ務めを果たす。人に興味のない、あのアズに認められるホド。
川田のキイも、はじめは避けていた。しかし戦嫌いで、子を慈しむ男だと知り、考えを改める。東山と付き合う気は無いが、同じ狩り人として付き合おうと。
「深追いしたムツも悪いが、獲物を追っかけて来た子を、サラリと攫う遣り口。手慣れてた。」
「あぁ。カイが直ぐ見つけたから良かったが、他の子だったら。そう考えると恐ろしい。」
ウエとキイの話を聞いて、タイが閃いた。
「あの男、逃げると思う。だからウッカリ『逃がしちまった』って感じで、舟まで行かせよう。」
「そうか、タイ。」
「そうだ、スケ。」
獣山に隠されていた舟は、そのママにして有る。蔦山の長から許しを得て、盗人を捕まえるエサにしたのだ。
もし隠された舟まで真っ直ぐ行き、迷わず川まで辿り着けば、あの子らを攫ったのもアイツって事になる。
幾ら締め上げても、どこの誰か言わない。『はじめて子を攫った』なんて言い訳、信じるモンか!