8-114 ガブガブ、ガブリ
クソッ、何だ。守りが固すぎる。親と木の実を採るのに、狩り人なんて連れ出すなよ。狩り人の子はもっとヒドイ。なんで子一人に、大人が三人も付いてんだ。
北じゃナニか? 狩り人が呻るほど居るのか。多いのか、余ってんのか。攫えねぇ。
少し南でイイのを三匹、チョロかったぜ。アレで戻ればヨカッタ。もう二、三と思って山を越えたら、このザマだ。
逃げられないように縛って、見つからないように隠した。なのに逃げられた。いや、見つかって取られたんだ。
「深追いするな、戻れ!」
「ヤダ。矢が中ったモン、もう少し。」
キタ来たキタァ! 来いコイ来い、こっちコイ。
鳥の川と魚川の近くにある兎原で、矢羽のオリを攫った大野のガガ。獣山で見つかった三人を攫ったのも、この男である。
光江の水門頭に言われたのだ。『子なら少なくても四人、攫って戻れ』と。
ガサッ、ピョン。タッタッタッ。
「待てぇぇ。」
ガサガサ。???
「ンン、ムグフグ。ムムゥ。」 ヤダ、ハナシテ。ヤダァ。
飛び込んできた子の口に、丸めた布をギュウギュウ押し込みながら走る。少し離れるとサッと屈み、髪を掴んで口と鼻に布を当て、頭の後ろで結ぶ。
「やっと一匹ガッ!」
「ヴゥゥ。」 ハナサナイゾ。
子の背に膝を立て、地に押さえ付けたたガガの尻に、狩り犬がガブリと噛みついた。
「ワン、ワオォォン。」 ミツケタ、アツマレェェ。
子と山に入った狩り人は、親を含めて三人。狩り犬も三匹。近くにいた狩り人も、連れていた犬を放った。よって遠吠えを聞きつけ、集まった犬はザッと十匹。
放そうとしなかったガガは尻を噛まれたまま、子を担いで逃げようとした。となればワンコたち、迷うコトなく足にも腿にもガブガブ、ガブリ。
痛みに耐えられず、肩から落としてしまった。
「ムゴッ!」 イタッ!
「クゥン。」 タスケニキタヨ。
犬に頬をペロペロされ、涙が引っ込んだ。布を解き、口から布を出してペッペ。
「オイ、人攫い。ウチの倅に何しやがる。」
気が付けばガガの周りに、鍛え上げられた狩り人が。
「い、たい。たす、けて。」
他の犬は飼い主の元へ戻った。けれど初めに噛みついた犬は、ガガの尻にプラァン。お察しの通り、攫われた子の家で飼われているワンコです。
「カイ、放せ。ソイツの尻から牙を抜け。」
カパッ、トタッ。
「ワン。」 ハイ。
尻からは離れたが、ガガからは離れない。噛む気マンマン、逃がしまセン。
「オレは東山の狩り人、ウエ。テメェはドコの誰だ。」
集まったのは、東山の狩り人だけじゃナイ。
武田、東山、飯田。川北、豊田、玉置の国に囲まれている獣山は、釜戸山が取り仕切る狩場。当たり前だが、どんな悪さも許されない。許されるワケがナイ。
ガガは知らない。釜戸社の力、その裁きについて。