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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
釜戸社編
63/1627

4-17 止まらない、止める気もない

釜戸社だって、頼りたい時は頼る。釜戸山が噴き出せば、日吉山に。釜戸社では難しい。そんな時には、霧雲山に。霧雲山の、祝辺の守を頼る。


「川北の長よ、よく聞け。釜戸社はな、霧雲山の、祝辺の守から任されている。裁きを下し、仕置を執り行う。すべての責、科を正す。それが、釜戸社の祝。務めを果たす限り、守られるのだ。」


さらに続ける。


「頼ることは、恥ずかしいことではない。情けないことでもない。頼って何が悪い。そもそも、川北の長よ。長だって、釜戸山へ来たではないか。釜戸社の、祝を頼って。違うか? 違わない。違うなら、ここにいない。」


さらに、さらに続ける。


「何しに来た? 出で湯に、浸かりに来たのか? 良い湯だろう? 気持ちが良い。食べる物も、飲む物も、とてもおいしい。幸せな気持ちになる。良い山、良い村、良い人たちが暮らしている。もちろん、良い犬も。」


犬が揃って、そうだ! という顔をしている。気のせいではない。


「ああ、そうだ。大甕湖だったな。皆の大甕湖。で、どうした? なにがあった。」


噴き出したら、止められない。ドロドロに溶けた岩が、勢いよく流れ、すべてを飲み込む。


祝の怒りも同じ。止められない。誰にも。ドロドロに溶けた岩のように熱い思いが、勢いよく流れ、飲み込んだ。



「わ、ワシ。わ、わた、っし、お、長と、しってぇ、お、大甕っ湖。」


エイさまの姿は、しっかり隠されている。見えない。それでも見える。怒りに我を忘れ、追い詰める祝が!


「大甕湖? 皆の湖が、何だ。」


低く、刺すような声。


「皆の湖、大甕湖。が、何だ。」


くりかえす。わかりやすく、言い換えて。


「お、お前たちも、な、何とか、い、言え。」


ついてきた、いや、連れてこられた二人の男。手練れだろうが、エイさまの敵ではない。


「い、いえ。な、何も。」




「鷲の目よ。」


「はい。」


「水を汲んだ子と親を、鞭うった者。釣り人の子を縛り、投げ込んだ者。狩り人の犬を、蹴り殺した者。娘を切りつけた者。狩り人を刺した者。見ればわかるか。」


「はい。川北から、長とともに来た、五人の男たちです。」


やっぱり、ね。


「守り人の村で見、驚きました。」


「続けよ。」


「気づかれないよう、守り長の家へ行き、お伝えしました。」


そして、すぐに見張りがつきました。罪人と同じように。


「捕らえよ。」


川北の長は、犬飼いたちに。残り二人は、逃げた。が、三匹に囲まれる。祝人が近づくと、逃げた。が、鷲の目と、控えていた狩り人によって、捕らえられた。




「仕置を言い渡す。川北の長、ともに来た五人。仕置場にて、鞭たたき。縛ったまま、火口へ吊るす。」


「い、嫌だ! わ、ワシは長だ。川北の長だぞ。戻らなければ、釜戸社を攻める。いいのか。」


「川北の国は、罪を重ねすぎた。すでに使いを出してある。裁きを下し、仕置を執り行うと。」


「そ、そんな。」


「川北の、新たな長が言った。釜戸社の祝に従う。大甕湖は皆の湖。もう、欲しません、と。」


「あ、らた、なっ。」


川北の元、長。ともに来た五人。とっくに裁きが下っていたことを知り、項垂れた。



「仕置場へ。」


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