8-113 悪鬼の十八番
「・・・・・・気付かれたか。」
耶万から言われた。『浅木、風見、早稲から一隻に乗るだけ、食べ物が運ばれる。だから引き換えに、割符を出せ』と。
それダケじゃない。大稲、大倉、実山。良那、岸多まで言い出した。『早稲に割符が渡らなければ、食べ物を出さない。渡さない』と。
大稲、大倉、実山。風見、早稲は解る。結んでるからな。良那は置いといて、残りは何だ。なぜ浅木は早稲と連む。なぜ岸多は、風見の動きを知った。
「・・・・・・ハァ。」
万十も氛冶も、浅木に言われるまま。気持ちの悪い狐どもに、ウチの取り分を奪われた。
冬を越せるダケじゃ足りねぇ。倉ん中に呻るほど有るんだ、四の五の言わずにサッサと出しやがれ。
狩り人の子や整ってる子を攫うよう言い聞かせ、放ったヤツらが少ししか戻らない。連れて戻ったのは、たった三匹。丸くて大きい、育ちそうな子だよ。
痛めつけたら静かになったが、ありゃ歪んでる。
売っ払おうにも身動きが取れねぇ。騙せそうなのが引き上げて、疑り深いのがワンサと来た。
奴婢は森ん中、知らなきゃ分かんねぇトコに入れてある。けどよ、見張られてんだ。朝から夜までズッと。
餌やらねぇと死んじまう。見た目が違うから、『光江の子だ』って騙せねぇ。
「水門頭。その、ちょっと。」
勢いよく入ってきたのに、モジモジ。
「何だ、言え。」
「感じ悪いよ、その言い方。良くないなぁ。」
マツの横で、悪鬼が囁く。
「ヒイッ!」
困るんだよねぇ、忘れたの? 光江がナゼ、滅ぼされたのか。
強いのには媚びるのに、弱いのは虐げ、売り捌いていた。それも、ずっと前から。
耶万の大王に知られて、滅ぼされたんでしょ。生き残り全て、奴婢になったんだよね。
もう止めようよ。アッチコッチからキテるよ、イロイロ。子を攫って、親も攫って閉じ込めて。で、弄んで殺す。
人ってコワイ生き物だねぇ。狐に生まれて良かった。ん? ナァニその目。させないよ。好きでも無いのに触らせない。
「あのさ、割符どこ? 見当たらないんだ、オカシイよね。作ってるハズだよ、聞いたよね。」
「い・・・・・・いえ。」
「嘘だぁ、言ったモン。嫌呂さんと、ちゃんと伝えたモン。狐火で焼くよ。」
はじめは明るく、楽し気に。『焼くよ』だけ、低い声。
こ、怖い。殺される。妖怪は人には見えない、姿を見せない。ハッ、見えるぞ。・・・・・・見せているのか。何のために!
「ねぇ。どれだけ死んだか、知ってる?」
「知るか!」
「だよねぇ、知らないよねぇ。でさ、動くらしいよ。」
何を言っているんだ、この狐は。オレが知らなくても動く? 何が動くってんだ、解るように言え。
や、めろ。そんな目で見るな。来るな近づくな、どっか行け。
「酷いな。狐の心を傷つけて、楽しい?」
恐怖と絶望の隙間から侵入し、魂に闇の種を植え付けた。悪鬼の好きな時に、壊さず操るために。