8-112 なぜ人は
浅木は耶万に言った。『一隻に乗るだけ、食べ物を渡す。だから割符を出せ』と。
耶万まで遠いし、冬も近い。浜まで運ぶダケで済むのは助かるが、光江は全く信じられない。
ゴッソリ抜いて『これダケしか運び込まれてナイ』とか『入ったのはコレだけ』とか何とか、息をするように嘘を吐く。
ここまでハッキリ伝えたのに臣、キキは出し渋った。耶万は変わったトカ、光江を信じたいトカ、グズグズだらだら。
浅木の使いは思った。『光江と組んで、ちょろまかす気だ』と。
浅木の使いは溜息を吐きながら、『割符を出さないなら浅木も早稲も、決して食べ物を出さない』と言った。
「で、どっち。 耶万、それとも光江?」
ヒサがヒトに問いかけた。
「光江だ。食べ物を渡せば、光江の割符が手に入る。」
「ヨシ!」
カツたち、大喜び。
人攫いが持っていた割符と、食べ物と引き換えに受け取った割符が同じ作りなら、合わなくても証になる。
明日にでも漕ぎ出し、子らを釜戸山へ。社の誰かに託し、伝えよう。
釜戸の裁きは、直ぐには始まらない。見た者、聞いた者、証が揃っていても、しっかり調べる。
兎原から攫われたオリは、親が迎えに来るだろう。鎮の三人は受け入れ先が決まるまで、釜戸山に留まる。
『戻りたくない』って言ってるんだ。暮らしやすい里とか村、国に引き取られるだろう。
この辺りで起こった事、見た事や聞いた事。隠さず全て話せば、冬が来る前に戻れるハズ。
割符は調べるから渡せないが、他は渡す。
釜戸社から調べに来る頃には、光江の割符も早稲に有るだろう。里人が見つけた品は浅木に有るんだ。必ず来る。
「子らにはセイから、オレは舟を調べる。ヌエはシギに頼んでくれ。社から伝えられるなら『早稲から釜戸山へ行くから、よろしく』と。ヒトはもう一度、みんな村に居るか調べてほしい。」
「分かった。」
「ごめんください。早稲神の使わしめ、実です。」
「はい、ただいま。」
大貝神の使わしめ、土。カサカサッと、お出迎え。
そうですか。そんな恐ろしいコトが、大貝山の統べる地で。・・・・・・ハァ。なぜ人は、人を物のように扱うのでしょう。サッパリ解りません。
四人の子のうち、一人は親元へ戻れるでしょう。残り三人は聞く限り、霧雲山の統べる地で暮らす方が幸せでしょうね。
多くの質が死んだのに、なぜ生き残れたのか。ウチの子は戻らないのに、なぜ戻れたのか。口から出なくても伝わります。
辛く恐ろしい思いをしたのに。
ヒビが入った心が、粉粉に砕けてしまう。
「大貝山も霧雲山も閉ざされました。けれど大蛇神の使いなら、きっと。」
「良かった。」
お任せください、急ぎ伝えます。嫌呂がネ。
もし断られれば、大貝山の統べる地の端まで行き、お願いするより他ありません。幾ら妖狐でも、それはツライ。
鎮の西国と中の東国は、遠く離れています。同じ中つ国でも、国と国との話し合い。乱雲山が動きますヨ!