8-111 当たりだ
「なぁ、カツ。」
「何だい、ヒト。」
耶万に食べ物を分ける。話し合って、そう決めた。気に入らないのは、光江に運ぶ事。
あの光江だ。驚きゃシナイよ、けど何だい。隠れ里の人を攫って、洞に放り込んで殺しただと? 酷い事しやがる。
耶万の王が代わってから、悪い話しか聞かないんだよ。安、光江、采、大野、悦。
気持ち悪いのは、今井に近いヤツ。今井は負けても諦めず、仕掛け続けたから皆殺し。生き残りは居ない。けど他所に居るんだ、縁の者が。
全てじゃナイけど、暴れたいんだろうな。悦や光江のゴロツキと組んで、いろいろ悪さを。
浅木との話し合いでも出たんだ。盗みや子攫いを捕まえたら、今井と縁がある、悦や光江の生き残りだった。なんて事が、当たり前になったって。
里人が捕らえたヤツらも、そうなんだろうな。山狩りして十三人。他にも居ると思うぜ。
「少し前に葬った、腰麻の子。」
難しい顔をして、ヌエ。
「奥で浮いてた?」
ヒトに問われ、頷く。
「あの娘さんが、何だい。」
「何だいって、カツ。」
「ん?」
ヌエを見つめ、キョトン。
シンを攫って袋詰めにして、担いで運んでたのをセイに見つかった、あの男。大野のカズ。持ってただろう、割符。アレ、光江のだよ。
中主の長と捕まえたの、安の長の倅だろ?
オカシイと思わないか。長の倅なら、安を立て直すのに努めるハズだ。何でゴロツキと組んで、人攫いなんて。割符まで持って。
「確かに、そうだな。」
ヌエの話を聞き、カツが考え込む。
思い出せ。一つでも良い、同じ何かを。顔、似てない。衣、どこにでも有るヤツだった。目、イッチャッてた。ありゃマズイぞ。
持ち物、・・・・・・ん? 持ち物。ナンカひっかかる。何だ、何だっけ。腰、足、頭。あっ、頭だ! 頭に付いてるモノ。
「思い出した! 鬟、結び方。」
「いきなり何だい、カツ。」
「なぁヒト、会ったコトないか? 安の倅。首にある黒いのから、白い毛が生えてた。」
「いやぁ、ナイと思う。」
「ヤツと同じなんだ、大野のカズ。安と大野は近い。光江は遠いけど川を下って、海に出れば行ける。」
カツ、力説。
「安の倅と大野のカズは従兄弟で、親が光江の生まれって、言いたいの?」
「そう!」
カツに抱きしめられ、セイが照れた。
「光江は縮れ毛、結うのにコツが要る。だから他と違うんだ、結び方が。」
「そうか、オレ分かったよ。浅木の長が、何を言いたかったのか。」
ヒトの目が輝いた。
耶万の王が代わってから、人攫いが増えた。洗い浚い聞き出し、割符を持つ男は、他とは違うと思った。でも何なのか、分からないってな。
鬟だよ、鬟。いろんな結び方が有るけど、長の倅なのに小さいのはオカシイ。早稲くらいだろ? 変えないの。だからオレの頭、ずっと見てたんだ。
「てコトでカツ、当たりだ。」