8-110 巡り合わせが良かったから
「お世話になりました。」
中主、菜生、中多の子らが、頭を下げる。
「キャン。」 アリガトウ。
シンの足元で、尾を振るチロ。
三つの里が結んだと聞いた。早稲とは結ばないが、商いで繋がるコトに。
良い事だ。幾ら変わったと言っても、早稲は早稲。戦好きで歪んでいる。そんな村と結べば、子から親を、親から子を奪うコトに。
オレは殺しすぎた。他所の人だから、死ぬまで殺し続けろ。てなコトを言われ続けりゃ、従うしかサ。
姉、父、母、弟も死んで、一人残された。子を産んで、慈しんで育ててくれる女を探したけど、居ないんだなぁ。
契るツモリで迫っても逃げられる。添い遂げる気で居たのに、逃げられたよ。だから嬉しかった。ユユを抱くセイを見て、心の底から思ったんだ。守ろうって。
早稲を変えるのは難しい。
ユユが親になるまでに、女が笑って暮らせる村に。なんて夢、見ちまった。
「もう、攫われんじゃネェぞ。」
怖い顔をして、カツが言った。
「はい。」
五人揃って、良いお返事。
「カツさん、また会えますか。」
「あぁ、会える。狩り人だからな、オレ。」
シンの頭を優しく撫でて、ニコリ。
山狩りをして捕まえた人攫いは皆、耶万に滅ぼされた国の生き残り。大野が二人、安と光江が三人づつ、采が五人。
犬を殺したのも、子を攫ったのもソイツら。
洗い浚い話すよう、激しく痛めつけた。朝から夜まで休みなく。で、やっとだ。向かった隠れ家で、探していた人たち・・・・・・の、骸を。
あまりの酷さに目を背ける。
見て直ぐ解った。穢され、嬲られたのだと。親が逃がしたのだろう。洞の近くで見つけた。獣に襲われ、食い殺された子の骸を。
この子たちが生き残ったのは、巡り合わせが良かったから。あの洞に入れられていたら、死んでいた。
「ありがとうございました。」
シンの肩を抱き寄せ、ツク。
「ありがとうございました。」
サロとサナを抱き寄せ、サオ。
「ありがとうございました。」
オロとロロを抱き寄せ、カロ。
里長が揃って、深深と頭を下げる。
ツクはシンの父。サオは、サロとサナの父。カロはオロの父で、ロロの叔父。
三人とも忘れられない。洞の中で死んでいた、母親の姿と顔が。森の中で死んでいた、子の姿と顔が。
山の恵みを頂くため、子を連れて森に入った。子連れだ、そんなに遠くへ行かない。
ほんの少し目を離した隙に、子が攫われた。慌てて取り返し、逃げようとして捕まる。そして、あの洞へ。
子に狩りを教えるため、山に入った父も気の毒だ。
ほんの少し目を離した隙に、子が消えた。犬も見つからない。子の側から離れないように、言い聞かせてある。直ぐに見つかるハズだった。
他の狩り人にも知らせ、アチコチ探し回った。なのに見つからない。となると、答えは一つ。
「良かったな。もう、離すなよ。」
カツも親、見れば分かる。何を思い出したのか。
「はい。」
そう言って、力強く頷いた。
みんなで見送った。大きく手を振って。