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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
大貝山編
622/1584

8-106 二度も攫われ


「私、ここに残りたい。」


掘っ立て小屋から救われた、八人の一人。ココ。


「私も、残りたい。」


同じく、ミア。


「オレも、残りたいです。」


同じく、カセ。



三人とも整った顔をした、美しい子だ。カセは男の子だが、娘のよう。


皆、しづめ西国にしくにから攫われた質である。他にも居たが、死んだ。質なのに殺された。



逃げられないよう、足の筋を切ってから、生きたまま獣の群に。男の中に放り込まれ、気を失う事も許されず、慰み者に。殺し合いを強いられ、従わず歯向かい、なぶり者に。



皆はじめから、酷い扱いを受けたワケでは無い。


他の子との違いは二つ。王が使いを出し、粘り強く掛け合った事。諦めたような顔をして、おとなしく囚われていた事。



ココは儺国なのくににある国の、王の末娘。ミアは珂国かのくににある国の、おさの娘。カセは対国ついのくににある国の、兵頭つわものがしらせがれ


幼い頃からいくさに怯え、死を近くに感じていた。



虐げられていたワケでは無い。


ココもミアもカセも、シッカリと守られていた。けれど三人とも、『戦とは何か』を知っている。生きて戻れたとしても、攫われた時とは違っている事も。



他の子は慈しみ守られ、スクスク育った子や娘。つわものの妻や、思い人もいた。


『助けが来る』『家に帰れる』『迎えが来る』など、前向きに考え、生きることを諦めなかった人たち。






「ねぇ君たち、ドコから来たの。」


掘っ立て小屋から救われた、八人の一人が問いかけた。


「・・・・・・言わない。」


カセが答える。



他の五人は、中の東国ひがしくにの子。『二度ふたたびも攫われた、質の生き残り』なんてコトを知られれば、戻されるだろう。



鎮の西国に戻されれば、耶万やまに殺された人たちに、何をされるか分からない。


なぜウチの子は、なぜ思い人は。なぜウチの娘は、倅は。ウチの孫は戻らないのに、なぜ戻ったんだ。戻れたんだ。



言わなくても分かる。伝わるのだ、そういう思いは。


何があったのか、どんな死に方をしたのか。思い出したくないコトを、根掘り葉掘り聞かれる。答えなければ、どうなるか。




三人とも奥に隠され、一人づつ小さなひとやに入れられていた。食べ物も水も貰えず、グッタリ。


耶万にいた時は良かった。やしろの継ぐ子が夜、こっそりかゆを食べさせてくれたから。



ある夜、言われた。『オレたち逃げます。獄から出すので、ここから逃げましょう』と。


黙って、首を横に振る。疲れ果てていたのだ、生きる事に。それでも判らないように、獄を壊してくれた。




気が付くと袋に入れられ、運ばれていた。


グワングワンして、辛かったのを覚えている。肩からドサッと下され、放り込まれた。だから三人で固まって、息をひそめて隅に。



飲まず食わずで動けず、お迎えを待っていたら、いきなり粥を口に流し込まれた。そして知る。耶万から、纏めて攫われたのだと。




兎原うさはらで、オレを攫ったのは大野。安とうねの生き残りと組んで、狩り人の子を狙ってた。舟の中で聞いたから、確かだぜ。あっオレ、矢羽やわのオリ。」


・・・・・・。


「君たち、鎮の西国の子だろう?」


知られた、気づかれた。どうしよう。


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