8-106 二度も攫われ
「私、ここに残りたい。」
掘っ立て小屋から救われた、八人の一人。ココ。
「私も、残りたい。」
同じく、ミア。
「オレも、残りたいです。」
同じく、カセ。
三人とも整った顔をした、美しい子だ。カセは男の子だが、娘のよう。
皆、鎮の西国から攫われた質である。他にも居たが、死んだ。質なのに殺された。
逃げられないよう、足の筋を切ってから、生きたまま獣の群に。男の中に放り込まれ、気を失う事も許されず、慰み者に。殺し合いを強いられ、従わず歯向かい、嬲り者に。
皆はじめから、酷い扱いを受けたワケでは無い。
他の子との違いは二つ。王が使いを出し、粘り強く掛け合った事。諦めたような顔をして、おとなしく囚われていた事。
ココは儺国にある国の、王の末娘。ミアは珂国にある国の、長の娘。カセは対国にある国の、兵頭の倅。
幼い頃から戦に怯え、死を近くに感じていた。
虐げられていたワケでは無い。
ココもミアもカセも、シッカリと守られていた。けれど三人とも、『戦とは何か』を知っている。生きて戻れたとしても、攫われた時とは違っている事も。
他の子は慈しみ守られ、スクスク育った子や娘。兵の妻や、思い人もいた。
『助けが来る』『家に帰れる』『迎えが来る』など、前向きに考え、生きることを諦めなかった人たち。
「ねぇ君たち、ドコから来たの。」
掘っ立て小屋から救われた、八人の一人が問いかけた。
「・・・・・・言わない。」
カセが答える。
他の五人は、中の東国の子。『二度も攫われた、質の生き残り』なんてコトを知られれば、戻されるだろう。
鎮の西国に戻されれば、耶万に殺された人たちに、何をされるか分からない。
なぜウチの子は、なぜ思い人は。なぜウチの娘は、倅は。ウチの孫は戻らないのに、なぜ戻ったんだ。戻れたんだ。
言わなくても分かる。伝わるのだ、そういう思いは。
何があったのか、どんな死に方をしたのか。思い出したくないコトを、根掘り葉掘り聞かれる。答えなければ、どうなるか。
三人とも奥に隠され、一人づつ小さな獄に入れられていた。食べ物も水も貰えず、グッタリ。
耶万にいた時は良かった。社の継ぐ子が夜、こっそり粥を食べさせてくれたから。
ある夜、言われた。『オレたち逃げます。獄から出すので、ここから逃げましょう』と。
黙って、首を横に振る。疲れ果てていたのだ、生きる事に。それでも判らないように、獄を壊してくれた。
気が付くと袋に入れられ、運ばれていた。
グワングワンして、辛かったのを覚えている。肩からドサッと下され、放り込まれた。だから三人で固まって、息をひそめて隅に。
飲まず食わずで動けず、お迎えを待っていたら、いきなり粥を口に流し込まれた。そして知る。耶万から、纏めて攫われたのだと。
「兎原で、オレを攫ったのは大野。安と采の生き残りと組んで、狩り人の子を狙ってた。舟の中で聞いたから、確かだぜ。あっオレ、矢羽のオリ。」
・・・・・・。
「君たち、鎮の西国の子だろう?」
知られた、気づかれた。どうしよう。