8-105 決意表明
「嫌呂さま、悪鬼さま。少し宜しいでしょうか。」
耶万神の使わしめマノ、ニョロッ。
「はい。」
コンコンず、ニコッ。
な、なんだ。何なんだ、何が起きた。『はい』って誰に。かっ、神に? オレ殺されるのか死ぬのか、そうなのか!
なんでコウなった。
オレは『王の剣』を手に入れて、力を得ようとしたダケ。まだ誰も殺してナイ、奪ってナイ襲ってナイ。なのにぃぃ。
なりたくもナイ王になったんだ。チョットくらい、イイじゃないか。
オレ男だぜ、イロイロしたいんだ。死ぬ、殺される。そんなのイヤだ嫌だイヤだぁぁ。
「喜べスイ。継ぐ子アコが耶万に戻り、社の司になるまでは生かす。」
氷のように冷たい目で、嫌呂。
「殺そうと思えば、いつでも殺せる。見逃すのは一度。次は無い。」
刺すような目で、悪鬼。
た、す、かった。オレ死なない、殺されない。良かったぁ。って、え? 殺そうと思えばイツデモって、そんなコト。
耶万神は『許す』と、仰ったのでは? 違いますか、そうですよね。
大蛇神の使い、でしたっけ。ココ耶万です。だから大蛇神より、耶万神の仰せに従います。
「スイ。もし、また。その時は王でも裁く。」
万十の大臣、イツ。
「忘れるな。耶万王の代わりは、幾らでも居る。」
氛冶の大臣、アヤ。
わかった。解ったから、そんな目で見るな。
『王の剣』、万十か氛冶に有るんだろう? ドッチも強いモンな、力を求めてもオカシクない。
アコ。蛇谷の祝が生んだ倅。
父は誰だ。大王か大臣か、臣か覡か。誰でもイイさ。オレじゃナイのは確かだ。けどまぁ、使えるモノは死ぬまで使う。クック。
「・・・・・・マノ。」
「はい。」
「私は、また間違えたのか。」
狐に、二妖に任せて良いと思います。恐ろしい狐ですよネ。
己の体なのに、思い通りに出来ないように。それからタップリ痛めつけ、ジワジワ追い込む。生まれたことを悔いさせ、死んでいるのに死にたいと思わせる。
繰り返し罰して、歪みを正す。ソレが出来るのは、隠か妖怪。
人の世の神は、お優しい。隠の世の神なら、迷わず為さいます。眉ひとつ動かさず、ニッコリ笑って。
「耶万に滅ぼされた国の中に、妖怪の国守は。」
「はい、居ります。」
会岐社の祝人だったフタ。千砂社の祝人だったモト。腰麻の四姫だったアキ。大石のクベ、加津のミカ。社に認められた国守は、この五妖です。
人に望まれ、国守になった妖怪の多くは歪みます。
はじめは良いのですが、強すぎる力に飲まれたり、溺れたり。人を傷つける前に社が動き、妖怪の墓場へ。
大祓の儀により、悪しき隠や妖怪は残らず、祓い清められました。けれど困った事に、人の世では増えております。
「堕ちぬよう裁くよ。だからマノ、支えておくれ。」
「はい。喜んで!」




