8-104 保安処分
私が愚かでなければ、多くの命を救えた。戦は止められないが、闇は。
社から溢れた闇には、根の国の闇が混じっていた。中つ国と根の国の境がズレて、漏れ出たのだろう。その闇をタヤが取り込み、操って。
「耶万神。そのように思いつめては。」
「ありがとう、マノ。でもね、私は救えなかった。」
耶万の男が、女を酷く扱った。言えないような事をして、追い詰め壊して。それで、それで・・・・・・。
穢されて死んだのは、タヤだけでは無い。他にも多くの女が、男によって苦しめられた。
死にたくなるような扱いを受け続け、殺される。
逃げられず変えられず、諦め受け入れるしかナイと思い込み。いや違う。そう思わなければ、生きられなかったのだ。
女や子を、モノとして扱う男は死んだ。死に絶えた。
耶万は変わる、変えられる。逃げた継ぐ子は多くを学び、春が来れば戻ってくる。次の社の司は、継ぐ子アコ。禰宜も祝も居ないが構わない。
祝の力は眠ったまま。けれどザク、ダイ、リキ、ヤヤには見える、聞こえる。アコと共に王を見張り、国を守るだろう。
耶万の大王になったスイ、大臣になったコロ、臣になったキキ。三人とも、酷く歪んでいる。
それでも従えるだろう。憎しみを抱いてしまったアコなら、きっと。
「ギリギリ締め上げれば、思い知るハズです。」
「イケナイよ、マノ。」
解って居ります。使わしめが堕ちれば、仕える神まで。ですから決めました。人に、祝の力を持つ人に、力を貸します。
アコの闇の力は、とても強い。王だろうが臣だろうが立ち向かうでしょう。継ぐ子たちは皆、大人から酷い扱いを受け、育ちました。
生まれて直ぐ放り込まれ、三つまで生きられなかった子。五つまで育ったのに、七つで死んでしまった子。七つまで育ったのに、生きられなかった子。
どの子も継ぐ子に看取られ、眠るように。
あの子たちは強く、賢い。
スイ、コロ、キキはツナギ。女や子を悲しませたり、苦しませれば迷わず、切り捨てます。
王や臣の代わりなど、幾らでも居ますから。
私は黒い蛇、隠なので闇にも強い。だから、お願いします。その時が来たら、迷わず私を放ってください。
醜く愚かな人を縊り殺し、根の国へ放り込みます。耶万から闇を広げるようなコト、決して認めません。させません。
「マノ。その時は、共に。」
「耶万神・・・・・・。」
「ゆ、るして。」
頬っ被りを握りしめ、スイ。妖狐の本気を堪能中。
「弱いクセに、求めるなよ。」
目に怒りの炎を宿し、嫌呂。
「いつ奪う? 今でしょ。」
真顔で迫る、悪鬼。
コイツから魂を引っ剥がして、獣に食わせよう。
痛みや苦しみを体に残して、魂に刻み付ける。オカシクなって忘れないように、芯だけ先に、根の国の獄に入れよう。
二妖は思った。この手のヤツは、死んでも解らない。
解らなければ生まれ変わっても、グニャリと歪んで出てくる。で、同じコトを繰り返す。だから殺して、叩き直さなきゃイケナイと。