8-103 言いたいコトは
「人の王よ、良く聞け。あの剣は、他所に移された。」
呆れながらもマノ、優しく教える。
「他所ってドコだ。」
諦めの悪い男、スイ。止せばイイのに、大きな声で。
「良いのか。」
「何が!」
とっても静かな夜です。社の隣に建てられた家には、二人の大臣。万十のイツと、氛冶のアヤが居る。
来るよ来るよ、ほら来た。
「何をしている。」
剣を構えるイツ、弓に矢を番えるアヤ。二人を照らすのは、嫌呂の狐火。悪鬼は出口で、ニコニコ通せんぼ。
「んっと、あれ?」
ワザとらしく、キョロキョロ。
「用を足して、戻ったのですが・・・・・・。」
スイよ。吐くなら、バレない嘘を吐け。
中は荒らされ、グッチャグチャ。身なりからしてオカシイ。頬っ被りして、その言い訳?
社に持ち込んだ品も、まぁ。
梯子に縄、掬鍬。どう見ても、隠れて悪さするヤツです。
「神の家で何をしている。答えろ、スイ。」
ジト目で、イツ。
「聞くまでもナイか。」
冷ややかに、アヤ。
秋の夜、冷えるハズなのにダラダラ。もしかしてコレ、冷や汗? では考えが纏まない、この感じ。『頭が真っ白になる』ってヤツですか。アハッ。
すっ、すんません。お願い、そんな目で見ないで。
オレ、見たかったんです。ピカピカ光る剣を。盗む? イエいえ、いえイエいえイエ。そんな、ないナイない。アリエマセンよ。ヤだなぁ、もう。
「耶万神。この男、どのように。」
???
「仰せのままに。」
???
なにナニ何だよ、何なんだよ。神? 耶万神? 御坐すのか、耶万にも。
オカシイじゃナイか。なぜ助けなかった、なぜ救わなかった。
どれだけ死んだと思っている! どれだけ奪われたと思っている! 殺されたんだ。人に、人じゃナイのに次から次へ、片っ端から残らず。
「言いたいコトは解る。けどな、人の世の神は動けない。だから閉ざし為さった。社に逃げ込んだ人を、闇から守るために。」
嫌呂が切り出す。
「耶万に人が残ってるの、当たり前だと思うのか。守られたんだよ、耶万神と使わしめに。」
スバッと悪鬼。
妖狐に詰め寄られ、声が出ない。
昼ならモフモフに挟まれ、心躍る? かもしれない。今は夜。青白い炎に照らされた、人と同じ言の葉を操る狐が二妖。
後ろには剣、矢を番えた弓を持つ男。二人と二妖にジロリと睨まれ、指すら動かない。
「お、オレは。」
「悪くない、ナンテ言うなよ。」
アヤに止められ、頬の肉がヒクヒク。
「それでも耶万の大王か。」
イツに問われ、クワッ。
「オレには向いてない! なのに王に据えられた。向いて無いんだよぉぉ。」
スイが叫び、さめざめと泣き出した。