8-102 探し物は
闇食らいの剣はグルグル巻きのまま、嫌呂と悪鬼によって、耶万社から持ち出された。
狐は飛べないが、妖狐は違う。妖怪の術を使えば、一山まで一っ飛び。
タヤと念珠が残した隠れ家は、人の世からは入れない。
一山の妖怪の墓場から、耶万へ続く道は塞がされた。よって隠の世から、中つ国と根の国の境へ。
一声かけてから根の国に入り、大蛇神の抜け殻で造られた道を進む。この道を通るには、根の国からの許しが要る。
許し無く通れば? 隠の世にも人の世にも、決して戻れません。
真っ直ぐ霊屋へ。
剣を横に置き、並んで首を垂れる。一山の湧き水と、耶万に咲いていた花を手向け、ニッコリ。
『耶万は変わりました。きっと良い国になります』と、心の声で語りかけた。
タヤも念珠もココには居ない。二妖とも知っている、解っている。それでも伝えたかった。
「さて。」
「埋めますか。」
二妖は見合い、頷いた。入り口と霊屋に分かれ、ノビィ。それから一歩づつ、数えながら近づく。互いの鼻先が当たりそうになると、右にズササササァ。
横に長い穴を掘り、剣までトコトコ。妖の術で持ち上げ、落とさないようカニ歩き。糸ごと穴に下ろし、土をかけ埋める。
シッカリと踏み固め、モフン。
「私どもは、これにて。」
嫌呂、ニッコリ。見張りを務めるのは大貝神の使わしめ、土の使い蜘蛛たち。
「皆さまで、お召し上がりください。」
ニコリと悪鬼。笹の葉に蜥蜴の尻尾を乗せ、差し出した。
「これは良い物を。ありがとうございます。」
カサッとお辞儀。
見張りは夜勤、早番、日勤、遅番の四交替制。必ず、三妖で任務にあたる。一妖は緊急対応、一妖は掩護。残る一妖は、応援要請するために。
洞穴内に設けられた詰所からは、伝声管ならぬ伝声糸が延びている。大貝社のみならず、和山社にまで!
妖怪の墓場へ続く抜け道は、土により完全に塞がれた。しかし風の通り道は、ちゃんと残してある。
通れるのは風と、大貝社の子蜘蛛ダケ。
薄暗いが風通しの良い洞穴での、六時間勤務。特別手当は付かないが、稀にオヤツが出るコトも。昆虫が多いが、今日はナント肉!
みんなで美味しく、いただきました。
「ドコだ、ドコに隠した。」
ブツブツ言いながら、スイ。耶万社に忍び込み、海を越えてきた『王の剣』を探している。
「ココで何を?」
探し物は、あの剣だろう。なんてコト考えながら、耶万神の使わしめ、マノが問う。
「・・・・・・だ、誰だ。」
今の耶万に、見える人は居ない。
「社で何をしている。」
・・・・・・ゴクリ。
誰も居ないのに、声が聞こえる。頭の中で!
あれ、オレ死ぬ? 聞いたんだよ、ココに有るって。ピカピカ光る、大きくて古い剣。ソレさえ有れば好きに、思い通りに生きられる。
オレは向いてナイのに、耶万の大王にされた。だから要るんだ、強い力が。解るだろう? クレよ、オレに。