8-95 何を言う
老いて死ぬまでは、死にたくても死ねない。傷を負っても、病に倒れても。それが不死の才。
エンはルーの隣で、安らかに眠っている。墓碑には、何も彫り込まれていない。中には骨壺が二つ、仲良く並んでいる。
ルーには不老、エンには不死。姉弟は願った。持って生まれた、才の消滅を。
譲り受けた時、『愚かな大王によって墓を暴かれ、骨を悪用されないよう、火葬してほしい』と頼まれたのだ。
エドたちは知らない。不死の才が、永遠を約束するモノでは無いと。
先代も、先先代も、その先代たちも知らない。だから、エンが生きていると思い込んでいる。
「まだか! 早く連れ帰れ。」
イライラしながら、エドが叫ぶ。
「大王。もう暫く、お待ちください。」
外務卿、大慌て。
「フェンよ、いつまで待たせる。」
いつまで? 知りませんよ。分かっているのは、たった一つ。不死の才を持つエンが、霧雲山に潜んでいる。それだけ。
それも真実とは限りません。アン王女のように、化け王によって。
ハァ。そんなコト、思っても言えない。
確かめようが無いのだ。アレは、他の化け王とは違う。大王も御存知、なのに仰った。『アンとエンは違う』と。
姉と従兄は違う。が、それダケか? 違うだろう。何を隠している。なんてコト、聞き出せるなら苦労しない。
「本当に生きているのか。」
アン王女の死亡が確認されてから、どれだけ。イヤそれより。そもそも化け王が王位を奪って、どれだけ経った?
王城に残された、先王の記録にあった。
戦場で負傷したエンは見苦しく苦悶し、『殺してくれ』と叫んだ。急に現れた化け王が、敵を焼き尽くす。それからエンを抱え、陣営へ。
化け王の営に入れるのは、化け王配下のみ。中の様子や遣り取り等、詳細不明。
翌朝、驚いた。瀕死の状態だったエンが、己の足で歩いていたから。傷は癒え、顔色も良く・・・・・・。
「化け王に、治癒の才は無いハズ。」
持ち主が死んだのに、治癒の才は失われたまま。死んだ王弟の妻は、先代化け王。収集の才は継承されたのに、なぜ治癒の才は継承されない。
持って生まれた誰かから、化け王が奪った?
そうか。それで全て、辻褄が合う。化け王は治癒の才を、誰かから奪った。大王の英断により前線に出たが、炎の才を多用したのは、奪った才を隠すため。
「だとするとぉぉぉぉぉ。」
王城地下にある短い廊下を、一人で歩いていたフェン。闇の穴に落ち、外へ。
「ギャッ!」
闇の道は、王城の外に繋がっていた。燦燦たる陽光を浴び、弱体化。
「残ったか。」
「何をする、バケモノ。」
塩を掛けられ、縮んだナメクジ状態。にも拘らず、フェンは凄む。
「陽光に焼かれるのは、才を失った王族だけか。」
ニコニコしながら、サラリ。
「治癒の才を、奪ったのか。」
「王族なら知っている。」
才を奪われ、体質が変わりましたからネ。
「なっ、なにっ。」