8-91 生きてるよね
「エイさま!」
社の司が飛び込んできた。
「シロさま。何ですか、騒騒しい。」
甥にジト目で見つめられ、タジタジ。
獣山で、蔦山の舟が見つかった。盗られた舟なのか、誰かが攫われたのか。細かい事は分からない。けれど恐ろしいことに子が三人、縛られたまま隠されていた。
人攫いが残したと思われる品は、どれも山では見ない物ばかり。
獣山に残された舟を見つけたのは、良村のタケ。掘っ立て小屋を見つけたのは、飼い犬シロ。
子らを見つけ、布と縄を解いたのは三人。良村のシゲとムロ、飯田のスケ。
良村は大人が少ない。アヤシイ舟や人を見た、なんて話もチラホラ聞く。なのに子を残し、良村から三人も呼ぶのは気が引ける。というより難しい。
「エイさま。矢羽の子が一人、攫われたと。名はオリ、六つの男の子です。」
釜戸社の祝人、ササが静かに伝える。
「また、隠れ里ですか。」
川から近い隠れ里で、子が攫われている。どの子もシッカリしていて、大人と共に森に入った。なのに消えた。
司葉、夜光、志太。何れも、畏れ川沿いに在るとしか。『隠れ里だから、どこに在るのか言えない』と。
「矢羽の子は、どこで。」
「兎原で攫われたと。」
夕方になっても、戻らなかった子は三人。日が暮れるまで探したが見つからず、次の日に二人、見つかった。
一人は昼過ぎ。兎原と魚川の間にある木の上で、幹にしがみつきシクシク。もう一人は夕方。兎原の西にある崖で、ジッと潜んでシクシク。
二人とも『殺される』『攫われる』としか言わず、話にナラナイ。
見つからない子。狩り人の倅に持たせていた弓が、兎原の外れで見つかった。真っ二つに折られて。
矢羽では人に襲われたら矢を、攫われたら弓を折って、里の者に伝える。誰に攫われたのか分からないが、攫われたのは確か。
「子だけで狩りに出たと。」
「そのようです。」
矢羽は、兎原の西に在る隠れ里。鳥の川から少し離れている。釜戸山から使いを出して伝えたのに、言い付けを破った。とはいえ、攫われたなら探さなくては。
「里を出た日に、攫われたなら。」
「三日、経っています。」
鳥の川は広く、深い。下りの流れに乗れば、夜でも進める。暴れないように縛り、休まず進めば海まで。
「エイさま。獣山で見つかった三人、畏れ川沿いの里の子では?」
「分かりません。確かめようもアリマセン。」
子が攫われたと伝えるだけ伝えて、サッサと帰ってしまった。
司葉の妹ミヤは七つ、姉ミユは十二。夜光のチイは、六つの女の子。志太のキンは、九つの男の子。
狩りや木の実を採るため、大人に連れられ森に入った。少し目を離した隙に攫われたのに、アッサリしてるなぁ。なんて思ったの、私が一人っ子だから?
『また来ます』って言ったけど、いつ来るの。いろいろ困るんだけど。・・・・・・生きてるよね。