8-90 待つしかない
「長! 獣山で三人、助け出されます。茅野に舟で運ぶので、受け入れてください。」
「なっ。でドコの、誰が。」
「分かりません。良村の人が三人、子を入れたら四人、助けに向かいました。」
子に狩りを教えに、獣山へ行ったのだろう。それで何かを見つけ、調べたら居た。
子にも手伝わせる、というコトは急ぎ。他の者に教えるより、子に任せた方が早いと考えた。
動かせないから舟で。動かせば死ぬような深手を負ったか、頭を強く打って、口から泡を吹いたか。何れにせよ、要る物を揃えよう。
「ワン。」 オマタセ。
「見てて。」
タケとムロが皮をバッと広げ、上下に振ってピンと張る。それからソッと、土の上に。
「お願いします。」
ソラから皮を受け取り、狩り人二人が、同じようにした。
ソラは広げた布が飛ばないように、手と足で押さえる。シゲは子を一人づつ、ユックリ運んでユックリ下ろした。
「大人を乗せても破れない、強い皮だ。両の手でスミをシッカリ握って、落とさないように進んでくれ。」
「分かった。」
先頭はシロ。その後ろに、子を運ぶ六人。
タイとヨイは弓をシッカリ持って、見張りと護衛を務める。タケは人攫いが残したと思われる品を袋に詰めて、ソラに渡して後に続く。
アヤシイ舟まで着くと、タケが残された品を袋に詰めた。それから集まった狩り人を二人連れて、掘っ立て小屋へ戻る。
証をシッカリ見せるために。
舟に残された品も、掘っ立て小屋に残された品も全て、釜戸山へ持って行く。
見つけた子は、どこの誰だか分からない。けれど釜戸山が取り仕切っている、獣山の狩場で見つかったのだ。釜戸社に任せる。
救い出された子が助かるとは限らない。話せなくなったり、目を覚まさない事も。だから残された品と、見た者の話で裁く。
「待ってたよ、シゲ。車で運ぼうと思ったが。」
舟寄せで待っていた長は、子を見て顔色を変えた。
「このまま運ぶよ。舟を押さえて、寄せてくれないか。」
「あ、あぁ。」
子を寝かせたままユックリ持ち上げ、舟から降りた。それから家まで、静かに運ぶ。
冷たかった手足は少し、温かくなった。けれど顔の色は悪く、息遣いも弱弱しい。
体に溜まった悪いのを流すには、少しづつ水を飲ませて、ゆっくり外に出すのが良い。血が体を回って、指が動くようになるまで、気が抜けない。
「ソラ連れて戻るよ。シゲとムロは、残る?」
「オレも戻る。気になるコトがあってな。」
タケに問われ、シゲが答えた。
「分かった。オレ、残るよ。」
ムロは狩り人。強面だが、物静かで優しい。攫われて弱り、死にかけている人の扱いに長けている。
「良村の狩り人、ムロです。よろしく。」
「茅野の村長、サコです。こちらこそ、よろしく。」
サコは思った。良村の人が一人でも残ってくれれば、何かと心強い。助けになるよう努め、支えようと。