8-89 助かるよ
優しく抱き上げ、外へ。
まず布を解き、縄を切る。どれだけ縛られていたのか、全く分からない。はじめは足を抱えて、座らされていたのだろう。爪跡が残っていた。
見つけた時、横たわっていたのは辛くなったから。膝を折ったままだと、血の流れが妨げられて痺れる。だから三人とも、仰向けだった。
「指、動くかい?」
シゲに問われ、ゆっくり瞬き。けれどピクリとも。
「腕を動かすのは、少し待とうね。」
縛られたまま動けなかった人が、イキナリ動き出すと死ぬ。シゲもムロも、嫌というほど見てきた。
なぜ胸を押さえ、苦しむのか解らない。血の流れが止められて悪いモノが溜まり、動いてドッと流れる。そのまま心の臓に刺さり、命を奪うのだろう。
こんなに小さな体では、きっと耐えられない。だからユックリ一本づつ、腕を横に動かした。
シゲもムロも、早稲の生き残り。狩り人なら皆、知っている。
だから己が知らない、思いもしない何かを知っている。そう思い、スケも同じようにした。
「シロ。上から男を三人、連れて戻っておくれ。」
シゲに言われ、尾を一振り。それから直ぐ、タッと駆け出した。
「戻るでしょうか。」
良村の犬好きは、釣り人だったハズ。なんてコトを考えながら、スケがポツリと呟いた。
「戻るよ。」
ムロがサラリと言い切った。
戦い慣れているのは人だけじゃない。犬だって同じ、早稲の生き残り。
戦場から生きて戻ったのだ。助け出された子を見て、どうすれば良いのか、何が要るのか直ぐ分かる。
「ワン。ワワワン、ワン。ワワン。ワン。」
尾を二振り。耳を下ろしてから、三振り。
あの子たちに要るのは、動かさずに運べる物。
良村の舟には大きな布と、柔らかくした皮が隠してある。アレが要るって伝えるには、どうするか。他の犬からミッチリ、教え込まれている。
「下で動かせない人が三人、助け出されるのを待ってる。寝かしたまま運ぶのを取って戻るから、戻るまでに狩り人を三人、揃えておいて。ソラ、舟に戻るよ。シロは待て。」
「ワン。」 ハイ。
シゲさんもムロさんも、いっぱい救ったんだ。タケさんに伝えたから、きっと助かるよ。待っててね!
ポカンとしていたが、シロにグイグイ押され、ハッとする。
犬を残したのは、オレたちを動かすため。なら三人、狩り人を集めなければ。下で待っているんだ。
子の数だけ狩り人を残し、急いで探しに行った。連れて戻った狩り人はナント、十二人。
獣山には二隻で来た。だから二組、四人運べる。タケとソラが落とさないように抱え、走って戻った。
「じゃぁ行くよ、三人付いて来て。シロ。」
「ワン。」 コッチデス。
転ばないように、でも急いで向かう。
残った人は話し合い、横に広い舟を選んだ。
ココから近いのは馬守、早く運ぶなら舟寄せが近い茅野。というコトで先触れに、茅野の人が子を連れて走る。