8-87 結ばなくても
「長! 直ぐ来てください。若い女が、奥の湖に浮いてました。」
「息は。」
「してますが、弱いです。」
オイオイオイ、その娘。掘っ立て小屋から消えた、腰麻の娘じゃないか? どうしようって、呼びに来たんだ。村に運び込んだんだよな、きっと。
「セイ。」
「分かった。出来る限りのコト、するよ。」
そう言うと立ち上がり、サッと飛び出した。
早稲は変わったと聞いて、それはナイと呆れた。けれど、今なら判る。真だ。
早稲は早稲だが、確かに変わった。村の女をチラリと見たが皆、穏やかな顔をしていた。痩せている人も居たが、幸せそうで。
女が笑って暮らしている。そんな里や村、国は良いトコロ。だから話し合いに持ち込む前に、必ず女を見る。
穏やかな顔をしていれば、ジックリ話し合える。暗い顔をしていれば引く。
早稲は倅を二度、助けてくれた。攫われた子を見つけ、湯を使わせて休ませた。攫われて恐ろしい思いをしただろうに、どの子も怯えていなかった。
信じよう。見せられた物も聞かされた話も、信じて結ぼう。少し前に仕留めた男は、安だった。光江、采、大野。どれも耶万に滅ぼされた国ばかり。
「里長。『早稲と結ぼう』なんて、考えちゃイケナイよ。」
ヒトがニコニコ笑いながら、言った。
「なぜ、そのように。」
驚いた顔をして、スエが問う。
「なぜって、早稲は戦好き。風見と結んでいる。」
涼しい顔をして、ヌエ。
「早稲から仕掛けるコトは無いが、風見から求められれば動く。里でも村でも国でも結ぶってのは、そういうコト。」
サラッと、カツ。
「早稲と結べば、戦に出るコトになる。それでも中主は、結びますか?」
優しい声で、ヒトが問う。
そうだ、早稲は早稲。幾ら変わっても戦好き。人を攫わなくなった、戦を仕掛けなくなった。それだけ。
結ばなければ良い。助け合えれば、それで。なら、どうする。
「早稲はね、睨まれてマス。釜戸山と乱雲山に。風見と結んでいるコトも、広く知られた話。そんな村と結んじゃイケナイ。」
「ヌエの言う通り。それに、結ばなくても付き合える。中主は隠れ里、これからも隠れ続ければ良い。」
「長もこう言ってるし、どうだろう。商いで繋がるってのは。」
カツに言われ、驚いた。心が読めるのかと。
中主が結んでいるのは、菜生と中多。どちらも隠れ里。
早稲の力を借りられるなら、なんて話が出たコトも。けれど結べない、結んじゃイケナイ。早稲は早稲だ、風見とも結んでいる。
結んで無いが、付き合いが有るのは浅木。早稲と商いで繋がるなら、浅木の許しが要る。暫く見張られるだろうが、早稲は変わった。いつか許しが出るだろう。
「早稲は浅木とも付き合っている。耶万から頼まれて、食べ物を光江に運ぶんだ。その話し合いが、明日。」
ヌエに言われ、またまたビックリ。
「話、通そうか?」
カツに言われ、ツクはスエと目で話し合い、決めた。
「お願いします。」