8-85 探していた子
「ワン、ワワン。」 ナスカラ、オサガキマシタ。
「どうした、カナ。」
体を舟寄せへ向けたまま、カツを見つめる。
「舟寄せに、誰か来たのか。」
「ワン。」 ハイ。
尾をフリフリ。
「セイ。『使いなら社に連れて行く』って、シギに伝えてくれ。」
「わかった、気を付けて。カナ、頼むよ。」
「ワン。」 オマカセクダサイ。
キリッ。
「おはよう、カツさん。使いも出さず申し訳ない。・・・・・・里の子が、攫われてね。」
「シンなら早稲に居る。森で見つけた。攫ったヤツは森に捨てたよ、死んでんだろう。助かんねぇよ、アレじゃ。」
「そうですか。その、傷などは。」
「転んだんだろう、擦り傷が少し。袋に入れられてた。怖かっただろうな、落とされたし。」
「エッ!」
息子が無事だと分かってホッとした父、ビックリ。
「まぁ他にもイロイロあってな、来てくれ。」
舟寄せから少し離れた森の中。隠すように建てられた、ボロボロの掘っ立て小屋。外から見ても分からない、そんな隠し方だ。
「ココにな、子が八人。縛られて隠されてた。」
カツが指差し、サラッと言う。
「なっ、何だって!」
中主の長ツク、狩頭スエ。兄弟揃って叫ぶ。
「みんな早稲に居る。残ってた舟とか縄とか、村に有るから見てくれ。」
「分かった。」
掘っ立て小屋の近くに、血が残されていた。助け出された子の誰かが、傷つけられたのだろう。
早稲の誰かが傷つけたのなら、見せずに隠すか消すハズ。『見せた』というコトは、攫ったヤツが。・・・・・・許せない!
救われた子から聞き出すしか無い。何が起こったのか、シッカリと確かめなければ。などナド考える兄弟、怒りを抑えながら、カツの後ろを黙って歩く。
「父さん!」
シンがタッと駆け出し、ツクに抱きついた。
「兄ぃ。」
スエがツクの背を叩いて、目配せ。
「・・・・・・エッ!」
ズラッと並んだ子の中に、菜生の里長の倅と娘。中多の里長の倅と、狩頭の倅が居た。
「長。知ってる子、居るかい?」
「四人、居る。どの子も森で消え、探していた子だ。」
「そうか。じゃぁ残りは、他から攫われた子か。」
「カツさん。その四人、どうするんだい。」
「釜戸山へ連れて行く。何があったのか隠さず、全て話す。シンと他の子は、隠れ里の子としか言わないよ。」
「ありがとう。」
湯を使わせてもらったのだろう。皆、サッパリしている。お腹いっぱい食べ、グッスリ眠ったのか。どの子も怯えず、真っ直ぐ前を向いて立っていた。
「はじめまして。早稲の長、ヒトです。」
「はじめまして。中主の長、ツクです。」
「あちらで少し、話せますか?」
子らを長の家に戻してから、早稲社へ。




