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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
釜戸社編
60/1627

4-14 判決は

狩り人にも名がある。もちろん、エイさまも御存じ。それでも、”谷河の狩り人”と呼ばれた。つまり、霧雲山から来た狩り人の一人。名を知らしめる気はない、ということだ。


「申し上げます。」


短く息を止め、話し出す。


「初め、鷲が気づきました。人が迷い込んだと。そして・・・・・・」



鷲が飛んだ方へ行くと、子がいた。男の子と女の子。聞けば、豊井から逃げて来たという。


山裾の地。霧雲山ではそう呼ぶが、平地ではない。山が連なっている。三山みやまも越え、湖を見つけた。沢を登り、高い山を目指す。越えても、越えても、山、山、山。


手に手を取って、山をこえ、谷を行き。そして、とうとう疲れ果てた。グッタリと、寄り添うように。



狩り人たちは焦った。遅かったのか、と。駆け寄り、生きていることを確かめる。


なぜ、子だけで? そう聞くと、言いました。


何度も、何度も、断ったのに。それなのに、豊田の長に迫られ、後添えにされそうになった、と。


親より老いた男に、舐めるように見られた。気持ちが悪くなり、立ち上がろうとした。すると、腕を掴まれ、迫られ、脅され、罵られ。


幼い弟、妹が泣き出した。父は怒り、母は子を抱く。離すもんかと、睨みつけながら。



帰ってくれと頼んでも、帰らない。十一の子の、女の子の髪を掴み、ワシのモノになれと。


父と豊田の長が、取っ組み合いになった。勝てない、そう思ったのか。外に待たせていた男たちを呼び、殴る蹴る。


父も母も、血まみれになった。弟も妹も、殴られ、蹴られた。となりの家の人が、飛び込んできた。村に帰ってきた、豊井の村長も。でも、勝てなかった。女の子は、泣く泣く言った。


「受け入れるから、帰って。お願いします。」




「もう、良い。」


「はい。」


「豊田の長よ、子を後添えに求めた。断られても、迫った。脅した。罵った。それだけではない。その親、幼い弟、妹たち。止めに入った村の人、みんな殴って、蹴った。」


確かめるように、ゆっくりと。


「使いを遣り、追手を引かせる。それまで釜戸山から出さぬ。子を、その親を傷つけた罪、重い。」


「お待ちください、嘘です。そこの狩り人が、嘘を。」


「嘘。」


「はい、嘘です。」


「聞いておらなんだか。」


「は。」


「谷河の狩り人。霧雲山の、谷河の村の。」


「で、ですが、う、嘘を。」


「知らぬのか。『霧雲山の、祝辺の守、谷河の狩り人へ。山裾の地から逃げ出した、その者ら見つけ、助けよ』そう命じられた。犬や鷲を従え、霧雲山から、山裾の地。山裾の地から、霧雲山へ。二人で行って、帰る。」


水を飲み、続けた。


「ずっと昔。祝辺の守から、釜戸社の祝へ。『裁きは任せる。木菟、鷲の目、狩り人を放つ。皆、我の使い。偽ることはない。受け入れよ。力になる』とな。」


豊田の長が、小さく震えた。


「つまり、嘘はない。木菟も、鷲の目も、狩り人も。皆、霧雲山からの使い。祝辺の守の使い。わかるか。」


「そ、それでも。」




「豊井の村、長の子テツ。」


豊田の長、ギョッとする。


「父に代わって参りました。豊井の村、テツです。さきほど、谷河の狩り人の話。嘘でなく、真でございます。


殴られ、蹴られた子。弟一人、妹二人。いまだ臥せっております。父母、血を吐き、危ぶまれました。痣だらけですが、起き上がれるようになりました。


弟二人、妹一人。となりの家に預けられました。が、村の者であっても、男たちを見ると怯え、動けなくなります。


あの日、村を離れていた父が、村に戻ってすぐ。私は、豊田から人が来ていると伝えました。すると、父が走りました。後添えにと望まれた、その子の家へ。ついてくるなと言われましたが、追いました。


豊田の長らが家を出てすぐ、家に入りました。血まみれでした。あの日から、父は、臥せったまま。私は言われました。釜戸社へ行き、訴えよ、と。」




「豊田の長よ、まだ言うか。」


黙っている。


「仕置を言い渡す。使いが戻るまでの間、仕置場にて、鞭たたき。痣だらけにしてから藁に、足を折って座らせる。釜戸山から噴き出した、大きな石を腿の上に、積めるだけ積む。」


「そ、そんな。」


「たとえ、釜戸山が噴き出しても、捨て置く。縛れ。」


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