4-14 判決は
狩り人にも名がある。もちろん、エイさまも御存じ。それでも、”谷河の狩り人”と呼ばれた。つまり、霧雲山から来た狩り人の一人。名を知らしめる気はない、ということだ。
「申し上げます。」
短く息を止め、話し出す。
「初め、鷲が気づきました。人が迷い込んだと。そして・・・・・・」
鷲が飛んだ方へ行くと、子がいた。男の子と女の子。聞けば、豊井から逃げて来たという。
山裾の地。霧雲山ではそう呼ぶが、平地ではない。山が連なっている。三山も越え、湖を見つけた。沢を登り、高い山を目指す。越えても、越えても、山、山、山。
手に手を取って、山をこえ、谷を行き。そして、とうとう疲れ果てた。グッタリと、寄り添うように。
狩り人たちは焦った。遅かったのか、と。駆け寄り、生きていることを確かめる。
なぜ、子だけで? そう聞くと、言いました。
何度も、何度も、断ったのに。それなのに、豊田の長に迫られ、後添えにされそうになった、と。
親より老いた男に、舐めるように見られた。気持ちが悪くなり、立ち上がろうとした。すると、腕を掴まれ、迫られ、脅され、罵られ。
幼い弟、妹が泣き出した。父は怒り、母は子を抱く。離すもんかと、睨みつけながら。
帰ってくれと頼んでも、帰らない。十一の子の、女の子の髪を掴み、ワシのモノになれと。
父と豊田の長が、取っ組み合いになった。勝てない、そう思ったのか。外に待たせていた男たちを呼び、殴る蹴る。
父も母も、血まみれになった。弟も妹も、殴られ、蹴られた。となりの家の人が、飛び込んできた。村に帰ってきた、豊井の村長も。でも、勝てなかった。女の子は、泣く泣く言った。
「受け入れるから、帰って。お願いします。」
「もう、良い。」
「はい。」
「豊田の長よ、子を後添えに求めた。断られても、迫った。脅した。罵った。それだけではない。その親、幼い弟、妹たち。止めに入った村の人、みんな殴って、蹴った。」
確かめるように、ゆっくりと。
「使いを遣り、追手を引かせる。それまで釜戸山から出さぬ。子を、その親を傷つけた罪、重い。」
「お待ちください、嘘です。そこの狩り人が、嘘を。」
「嘘。」
「はい、嘘です。」
「聞いておらなんだか。」
「は。」
「谷河の狩り人。霧雲山の、谷河の村の。」
「で、ですが、う、嘘を。」
「知らぬのか。『霧雲山の、祝辺の守、谷河の狩り人へ。山裾の地から逃げ出した、その者ら見つけ、助けよ』そう命じられた。犬や鷲を従え、霧雲山から、山裾の地。山裾の地から、霧雲山へ。二人で行って、帰る。」
水を飲み、続けた。
「ずっと昔。祝辺の守から、釜戸社の祝へ。『裁きは任せる。木菟、鷲の目、狩り人を放つ。皆、我の使い。偽ることはない。受け入れよ。力になる』とな。」
豊田の長が、小さく震えた。
「つまり、嘘はない。木菟も、鷲の目も、狩り人も。皆、霧雲山からの使い。祝辺の守の使い。わかるか。」
「そ、それでも。」
「豊井の村、長の子テツ。」
豊田の長、ギョッとする。
「父に代わって参りました。豊井の村、テツです。さきほど、谷河の狩り人の話。嘘でなく、真でございます。
殴られ、蹴られた子。弟一人、妹二人。いまだ臥せっております。父母、血を吐き、危ぶまれました。痣だらけですが、起き上がれるようになりました。
弟二人、妹一人。となりの家に預けられました。が、村の者であっても、男たちを見ると怯え、動けなくなります。
あの日、村を離れていた父が、村に戻ってすぐ。私は、豊田から人が来ていると伝えました。すると、父が走りました。後添えにと望まれた、その子の家へ。ついてくるなと言われましたが、追いました。
豊田の長らが家を出てすぐ、家に入りました。血まみれでした。あの日から、父は、臥せったまま。私は言われました。釜戸社へ行き、訴えよ、と。」
「豊田の長よ、まだ言うか。」
黙っている。
「仕置を言い渡す。使いが戻るまでの間、仕置場にて、鞭たたき。痣だらけにしてから藁に、足を折って座らせる。釜戸山から噴き出した、大きな石を腿の上に、積めるだけ積む。」
「そ、そんな。」
「たとえ、釜戸山が噴き出しても、捨て置く。縛れ。」




