1-6 狂犬王
命を吸えば、生きられる。それは皆、同じ。しかし、才の価値は、同じではない。わかるようで、わからない。理解しているようで、まったく理解されない。
禁忌といわれる才を、否応無しに背負い込む。そんな幼子の気持ちを、少しでも思いやったか。
利用することしか考えない、そんなヤツしか寄ってこない。不信感が募り募って、どうしようもなくなる。それなのに。
「死なないんだから、最前線で頑張れよ。」
エンは、何も言わない。言い返す気力が、ない。それをわかっていて、言う。
「オマエが盾になれ。」
気がつくと、奪っていた。
「死なないくせに、悲観するなよ。」
エンが、見えない涙を流す。耐えられない。死なないんじゃない。死ねないんだ。それなのに!
「才を奪われても、悲観するなよ。」
ずぶりと刺すように言って、奪った。
「楽しめ」
エンの心に、ひびが入る。生きるために命を吸う。人だって、いろんな命を奪って生きている。弱肉強食。鎖のように繋がっている。だが、楽しめ?
「オマエは、楽しめるんだな。」
ざくりと刃を入れるように、奪った。
毎日、毎日。歌うように暴言を吐く。やさしい従兄は、歪んでゆく。
祖父は、暴食と争いを嫌悪していた。変わり者だと言われたが、治癒の才は重宝される。暴言を吐かれ、傷つく姿なんて、見たことがない。
不死の才だって、収集の才だって、希少価値があるのは同じ。なのに、なぜこうも違うのか。
「カー、収集の才は美しい。」
祖父は言ってくれた。
「美しい才を持つとね、嫉妬されるんだ。」
内緒話をするように、耳元で囁き、笑った。
「王たる者、俯いてはいけない。辛くても笑顔で接しなさい。」
おじい様、私には。
美しく、優しく、賢い化け王。そんな祖母から継いだんだ。だから、私もそうありたい。思っていた。思って、耐えていた。けれど、限界だった。
狂犬王。そう呼ばれた。しかも公然と。
祖父母は泣くだろうか。それとも笑い飛ばすだろうか。落ち込んでいる場合ではない。俯かない。辛くても笑顔を絶やさず、堂々と戦った。城の中でも、外でも。
戦好きな大王は、挑んだ。大国へ。旗色が悪くなると、化け王を前線に送った。勝機を得るために。反対する者もいた。が、大王の言葉を聞き、納得した。
「アレなら勝てる。楽勝だ。最初に奪わせたのは、炎の才だ。恐れるな。」
容赦なく奪った。大王のためではない。ジル王の遺志だ。
『すべての才を奪う』化け王の悲願。才なんて、持たないほうが良い。不幸になるだけだ。
良い王になる。おじい様と約束した。王は民を守るもの。化け王の城で暮らす、すべての者を守る。やってやろうじゃないか。私は狂犬王。犬は、選ぶもの。
何が父だ。何が兄だ。どうでもいい。知るか!
才は増えに増え、一騎当千の強者として、重用されるようになった。しかし、才を駆使し、治療しても、心の傷は治せない。己の無力を思い知り、愕然とする。
それでも、何か。何か、出来るはず。考えて、考えて、たどり着く。
「エンが望んだとき、才をもらうよ。だから、逃げよう。壊される前に。」