8-83 やればデキル
攫われた子の多くは親から聞かされ、知っている。早稲は戦好きで、とっても悪い村だと。
早稲の人は他所の人を、一度だけ匿う。で、言えないコトを強いる。
助けられれば死ぬまで。いや、死んでも戻れない。そう言い聞かされて育った。だから怯える。
なのにシンは怖がらず、ニコニコ。二度も助けられたナンテ、とてもじゃナイけど信じられない。
だから心の中で『騙されるな。早稲だぞ、早稲なんだぞ』と叫ぶ。
「カツ、居る? 湯場、空いたよ。」
「オウ。そうだセイ、コイツらに話してくれ。」
「話すって、何を?」
「早稲が変わったってコト。」
「いいけど、冷めちまうよ。」
「ヨシ、付いて来い。」
・・・・・・。
「行こうよ。」
シンに言われ、他の子らが見合う。
「湯場。冷めるってコトは、出で湯じゃナイんだ。」
「賢いな、シン。その通り。チロはオレが洗うから、ユックリ入れ。着てるのは洗うから、籠に入れるんだ。」
「ハイ。行くよ、みんな。」
早稲の湯場は、村外れにある。
シゲたちが残したのは、家だけじゃない。湯場や水場、犬の産屋に遊び場まで。作ったのはカズ。どれもシッカリ作ってあるので、手入れすれば長く使える。
玉置と三鶴に荒らされた村は、少しづつ整えられた。旗を振ったのはセイ。
動こうとせずボンヤリしている早稲の人に、思わず叫んだ。『死にたくなければ動け、働け』と。
はじめは見ていたダケ。あれヤレ、これヤレ、サッサと動け。乱雲山に居た頃のマンマ、それはそれは偉そうに。しかし、どうにも。で、気付けば動いていた。
何だかんだ言っても、セイは乱雲山育ち。
子の家から離れている矢光の村には、コウが来るまで行かなかった。けれど近くにある幸田の村、雲井社の近くにある切雲の村には、グズグズ言っても放り込まれた。
幸田の村では田んぼ、切雲の村では畑。子の家でもイロイロ学んだ。小さい子に押し付けたので、正しくは見て学ぶ。
何も知らない早稲の人は皆、セイに従った。あの長の子で、カツと契った娘。ヒトもヌエもアテに出来ないが、カツとセイは違う。
カツは食べ物を狩ったり釣ったり、採ってくれる。セイは村を立て直す術を、分かり易く示してくれる。
ヌエとカツは子を攫い、釜戸の裁きを受けた。
ヌエは良いとして、カツが居ないと困る。なのにセイは笑いながら『肉が食いたきゃ入れ。男なら、黙って獣を狩れ』と、山を指差し言い切った。
社の司シギが、ニコニコしながら一言。『私は狩れませんが、釣りなら出来ます。食べられる木の実、キノコも分かりますヨ』と。
家が有る、着る物も有る。食べ物も手に入るって、アレ? 何とかナルかも。生きられると気付き、やる気を出した。
早稲には御饌津神で在らせられる、早稲神が御坐す。豊かな山、肥えた土、コンコンと湧く泉。その全てが揃っている。
釜戸山から戻ったヌエとカツは、とても驚いた。荒れ果てていた早稲が、すっかり立て直されているコトに。あのヒトとセイが、仲良く働いているコトに。