8-81 選りに選って
「長! ききっ、来てください。」
ん? セイと森に出た、誰だっけ。
「何ゴトかな?」
ニコニコ。
「ひ、人が縛られて。ゴクリ。ここっ、転がって。」
ゲッ。ドコんだ、煩わしい。
「オレが行くよ。」
「いや、ヌエは残ってくれ。」
もう暫くしたらヌエは、舟で光江まで行く。浅木と共に行くって、決めて来たケドさ。ヌエは足が悪い。
釜戸山から戻った時よりマシだが、まだ引き摺って歩いている。早く良くなるとイイけど、かかるだろう。
「こちらです。」
ったく、人攫いじゃナイだろうな。
「行って来るよ。」
「気をつけてな、ヒト。」
あの目、スンゲェ怒ってんぞ。顔は笑ってんのに。ヒトは人当たりはイイけど、歪んでんだ。オレ兄として、シッカリしなきゃ。
ってか、縛って転がすダァ? 攫って離れたのに、逃げられた。他に獲物を見つけたか、追手を見つけたか。何れにせよ、煩わしいコトに変わり無い。
「なんてコッタイ、こりゃヒドイ。」
選りに選って、こんな所に隠すとは!
早稲の舟寄せから、少し上がった森の中。ココを通るのは早稲の人か、狩り人くらい。こんな掘っ立て小屋、誰が。そんなに経ってナイな、コレ。
それより子だ。・・・・・・ハァ、女まで。
怯えようからして、まだ穢されてナイ。が、見せられたんだろう。セイを連れて来るようにって、森かぁ。
「私は早稲の長、ヒト。助けに来たよ。」
ニコッ。
・・・・・・早稲。早稲って、あの早稲?
戦場に放り込まれる、殺される。女は孕むまで穢されて、子を産み続けるんだ。嫌だ、嫌だよ、そんなの嫌だぁぁ!
どっ、どうしよう。逃げ、られない。こわい怖いコワイ。お願い、誰か助けて。そんな目で見ないで。顔は笑ってるのに、目は笑ってない。何が長だ、早稲め。
「怯えるなって言っても、難しいよね。でも触れなきゃ、縄を切れないんだ。だから、良いかな?」
石器を持って、ニコッ。
・・・・・・こっ、殺される。
あの石器、きっと凄く切れるんだ。イノシシとかカノシシの首でも、シュパッて。だって早稲だもん、早稲の石器だもん。
父さん、ごめんなさい。言い付け破って、ごめんなさい。オレ死にます、殺されます。母さん、ごめんなさい。オレ、悪い子でした。産んでくれて、ありがとう。さようなら。
ウッ、ウッ。泣かない。泣かないゾ。
ザッ、ザッ、バサッ。ザッ、バサッ。バサッ。
「さぁ皆、立てるかい。」
・・・・・・エッ。
「ん、ヒト。何だ、その子ら。」
「やぁカツ。その子は?」
「シンだ。森で助けた。」
「おやおや。」
「セン。女を頼む。」
「アイヨ。ほら、おいで。」