8-79 いけ好かない男だねぇ
「木の実、キノコは採った。残りのドングリは、獣に残そう。」
「はい、セイさん。」
大人も子も、キリッ。
玉置と三鶴に攻め込まれ、ボロッボロにされた。そんな早稲に戻ったのがセイ。
救い出されて乱雲山で暮らしていたのに、わざわざ戻った変わり者。カツと契り、子を産んだ。
そのカツがヌエと共に捕まり、釜戸の裁きを受けた。早稲に残る狩り人は、カツ一人だけ。カツが居なくなれば、どう考えても冬を越せない。
長になったヒトは、セイを頼った。乱雲山から食べ物を、少しでも良いから分けて貰えないかと。
言うまでもなく、断られた。『大口を叩いて出たのに、んなコト言えるか』と。セイはどんな時も、セイである。
『頼りたくない頼らない。動けるんだから食べ物くらい、山で探せ。死にたくなければ働け、歩け、サッサとしろ!』と叫んで、ギロリ。
ビビった早稲の皆は、言われるまま山へ。残りは田や畑を整え、作付けを。そうして誰一人死なさず、冬を越せた。
早稲の長はヒトだが、早稲を救ったのはセイである。気が強く、思い込みも激しいが皆、従う。イロイロあったが母、強し。セイは早稲でも、逞しく生きている。
「オイ見ろ、犬だ。・・・・・・流されてナイか?」
仔犬が流されながら泳いでいるのを、早稲の狩り人が見つけた。
「ん。オイあれ、舟じゃないか?」
少し先には、見慣れない舟が一隻。
「あっ、カツさん。」
カツが飼い犬、カナを肩に乗せたまま、泳いでコチラへ。
流されていた仔犬を捕まえ、頭に乗せスイスイ。立ち上がると仔犬を抓み、ジッと見る。そのままジャブジャブ川を歩いて、岸に上がった。
「チロ、攫われたのはシンか。」
「キャン。」 ソウデス。
一鳴きするとクンクン。クン、ククン。クンクン。暫くするとクッと顔を上げ、タッと森の中へ駆け出した。
「カナ、行け!」
「ワン。」 ハイ。
チロを追いかけ、森の奥へ。
「オマエら、付いて来い。」
走りだしたカツの後を、二人の狩り人が追いかける。どちらも何も言わないが、人攫いが近くに居ると思った。
ドサッ、ガサガサッ。
音のする方を見ると、大きな革袋を担いだ男が一人。袋の中に入っているのは、攫われ子だろう。獣にしては、動きがオカシイ。
離れているが山育ち。セイにだって、それくらい見分けられる。
食べ物が入った袋を、近くにいた子に持たせた。それから、矢を番えるように目配せ。弓の上手い女たちが、黙って頷いた。狙うのは、人攫いの腰。
腹を狙っても、中るとは限らない。子に中れば殺してしまう。だから、腰を狙う。
「ちょっとアンタ、なにソレ。」
この辺りじゃ、見ない顔だね。
「はっ。女が偉そうに、何だ。」
いけ好かない男だねぇ。
「ココは早稲の山。子でも獣でも、みんな早稲のモノ。ソレ置いて、サッサと消えな!」