8-76 知られてはイケナイ
「オイ。」
「オゥ。」
獣の皮を剥いで作った、仕留めた兎が二羽ほど入る袋。口に小さな穴を開け、紐を通してある。獲物に被せてキュッと引けば、この通り。
「なっ、グッ。」
「たっ、ヴッ。」
「やっ、ゴッ。」
鳥の羽を毟って、血を撒くように抜く。足を縛って枝からブラ下げ、火にかけパタパタ扇げば釣れる。犬と子を離せば、攫いやすい。
「急げ。」
誰か来る。
投げられた子を受け止め、肩に担ぐ。捕まえた子は腕に抱え、舟まで休まず、静かに走った。
子を投げた男は罠まで戻り、犬に止めを刺す。火を消し、音を出さないように気を付けながら、ひたすら走り続ける。
子らが連れていた犬は、たった一匹。直ぐに片付いた。
耶万から闇が溢れ、隠と妖怪が暴れた。多くの命が奪われ、多くの人が傷ついた。
耶万は戦好き。アチコチ仕掛けて、攻め滅ぼす。噂を聞き付けた真中の七国、鎮の西国に仕掛けられ、兵をセッセと送り続けた。
だから居ない。若い男、動ける男が。子も死んだ。戦に要るのは兵、戦の具、食べ物。男も食べ物も戦に取られ、残された者を苦しめる。
子は弱い。直ぐに熱を出し、病に罹る。
力を付けようにも食べ物が無い。だから日に日に弱って、死んでしまう。病じゃなくても飢えて死ぬ。ドロンとした目で、遠くを見つめて。
人が居なけりゃ連れて来れば良い、攫えば良い。
どうせなら強い人、育つ子が良い。強い村や国は避ける。どちらも守りが固いから、直ぐに見つかる取り返される。
風見、早稲。浅木、岸多、良那。実山、大稲、大倉。万十、氛冶、宿儺もイケナイ。川や海が近ければ攫いやすいが、危なくて手が出せない。
狙うなら隠れ里。南じゃ滅んで、ほとんど無い。が、有る。見つけた。
川から離れているが、犬を飼ってやがる。日暮れ前、連れ立って歩くんだ。川の畔を、子だけで三人も。
「何だ、コレは。」
食べようとして、した事じゃ無い。罠だ。
「ウゥ、ワン。」 チカイ、シンデル。
駆け出さず、飼い主を見つめる。
「ヨシ、行け。」
「ワン。」 コッチデス。
人攫いは三人、乗ってきた舟は二隻。せっかく攫ったんだ、返す気は無い。見つかる前に漕ぎ出して、遠くに逃げる。犬の骸を捨ててから戻ったのは、そのため。
「ワン。クゥン。」 ミツケタ。キノドクニ。
死んでから運ばれたんだろう。確か飼い主は、子だったな。・・・・・・きっと、攫われたんだ。
「この殺し、光江だな。」
「他所で殺して、ココまで運んだんでしょう。」
「罠だと分かって食い付くホド、腹ペコだったのか。」
「埋めてやりましょう。」
「あぁ。近くには居ないようだが、急ごう。」
里を知られてはイケナイ。だから遠回りして、戻る。