8-75 辛いハズなのに
冬が来る前に耶万へ戻りたい。きっと食べ物の事で、激しい争いが起こる。
耶万の王になった、あの男。これまでの王と同じ過ちを、笑いながら繰り返すだろう。だからオレが、この手で。
ザク、ダイ、リキ、ヤヤ。小さい子も耶万から逃げた。
ザクが大倉、ダイが大稲の纏めを務め、多く生き残ったと聞いている。みんな心も体も、健やかだと良いな。
祝の力が出たのは今のトコロ、オレだけ。リキたちにも眠っていると思う。継ぐ子になったのは皆、祝女や祝人の子だから。
オレは蛇谷の祝、煇の子。母さんはオレを産んで直ぐ、死んだ。なのにオレの中に残っている。母さんが見た事、された・・・・・・。口にするのも嫌な事、全て。
水手スイ。母さんを大王に差し出し、女を選ぶ許しを求めた卑しい男。
蛇谷の人は悪くない。なのにイキナリ攻め込んで、傷つけ捕まえ奴婢にした。許せない!
悪いヤツは皆、死んだ。なのにスイはノウノウと生きている。あんなのが王? 認めない。黙って従っているのは、万十と氛冶が怖いから。目を光らせているから。
作付けが終わるまで、耶万に残るらしい。でも、いや違う。だから出来るだけ多く、広く学びたい。
良那で学ばせてもらえるのは、社の事だけ。言われたんだ。『悔しかったら、強くなれ』って。
「伸ばそうとするな。刺すように、スッと動かすんだ。」
良那の国守、オト。
「はい。」
耶万の継ぐ子、アコ。
闇の力にはイロイロある。大きく分ければ、守りと攻め。アコの力は強く、どちらも使える。守りながら攻められる、とても珍しい闇だ。
戦好きに知られれば、必ず狙われる。戦場に放り込まれる。だから鍛えて、誰よりも強くならなきゃ。
己を守れなければ、誰も守れない。もう奪わせない、決して。
「人ですよね。」
良那の社の司、ウカ。
「今は、人だな。」
良那神の使わしめ、スオ。
・・・・・・わぁぁ。オトと戦って、立ってるダケでも凄いよ。アレ食らったら、妖狐でも吹っ飛ぶから。
アコは死にかけた。良那に担ぎ込まれた時、息してナカッタ。なのにクワッと目を開いて、ゲホゴホ咳込んだ。うぅん。生き返った、のか?
まっ、健やかになって良かったよ。
あれだけ濃い闇を纏えば、動けなくなるハズなのに、アコは動ける戦える。闇の力は母から、逞しいのは父から受け継いだのだろう。
言わない。だから聞かないが、耶万の大王だろう。祝だった母を穢し、孕ませたのは。継がせる気が無かったから、継ぐ子にした。
『母には似てませんが、祝の力は同じです』と、悲しそうな目で言った。憎い男に似た顔を見るのは、辛いハズなのに目を背けず、ギッと睨みつける。
アコは子だ、まだ子なんだ。あんな顔させられない。でも、どうすれば良い。
母は己を産んで直ぐ、死んだ。己が居なければ生きていた、死なずに済んだ。そう考えてもオカシクない。
「幸せに、なってほしい。」
スオがポツリと呟いた。
「そうですね。」
ウカも同じ望みを抱く。