4-13 言い分を聞こう
豊田の村から長が来た。そう、長が。
「私の後添えとして、豊井の村から、十一の娘を迎えるはずでした。」
いやいや、豊田の長よ。どう見ても。
「そうか。」
祝は、姿を見せない。釜戸山の人は皆、見知っている。他の人には、わからない。守るため、隠されている。
何も、エイに限ったことではない。代々の祝は、そうして守られた。
少し離れ、両脇に犬。犬飼いも控えている。許しなく祝に近づけば、ガブッ。カプッ、ではない。ガブッ、と噛みつく。
このことは必ず、初めに伝える。知りません、聞いていません、は通らない。そもそも、祝に無体を働こうなど、許されない。
釜戸山の犬は、厳しく躾けられている。命じなくても、走る時は走り、噛みつく時は噛みつく。呻っても、無駄吠えしない。賢い犬だ。
村では尾を振り、懐いている。が、社に入れば人が、いや、犬が変わる。
「あ、あの。」
声を荒げる事なく、豊田の長は続ける。
「で、ですね。村の者だけでは、とても、とても。」
・・・・・・。
「や、山狩りと、人を。」
「続けよ。」
「できることなら、狩り人を譲って頂き・・・・・・。」
「断る。」
ピシャッと言い切った。
「なぜです!」
ウゥゥ。犬が呻る。
「ヒッ。」
甘噛みはない。そんな目だ。
「狩り人。人! 物ではない。それを、譲れ?」
静かに、低い声で。
「そ、そのような。」
「そのような。」
小さくなった。それでも続ける。
「の、後添えです。わ、私の。」
えぇ、そこぉ?
「子は守るもの。長が守らず、どうする。」
そう、まだ十一。子ですよ、子。
「ま、守りますとも。」
へぇ。
「子を後添えに。で、守ると。」
五つの幼子に言わせるか?
「もう、娘です。子ではありません。」
「十一は子だ。十二ではない。」
そう、そうだ。
「ま、まず、見習いとして。いろいろと教え込みます。そう、いろいろと。」
おいおい、何を言い出す。
「教え込む、とは。何を、いつから、どのように。」
「ハッ、それはですね。迎えた夜に。」
裁きの時は、ナガ、サカ、ササの、誰か。一人、側につく。なのに、今。
何かを感じたのだろう。三人、揃っている。凄まじい怒りがビシバシ伝わり、犬が呻る。
「ヒッ。」
再び、小さくなった。
「つまり、十一の子を、押し倒すと。」
父、伯母、従兄、ビックリ。そりゃぁ、驚きますよね。
「それが、どうして、守ることになる。」
なりません。
「何も、弄ぶわけでは。後添えです。だから。」
だから?
「許される、と。そう考えるのだな。」
「はい、その通りです。お許し頂けますね。」
「許さぬ。」
バッサリ。そして頷く、保護者たち。
「その子から、助けを求められた。釜戸社の、祝として命じる。引け。村へ戻り、追手を引かせよ。」
「助け? あ、あの娘は、ここに。」
答える気なんて、さらさらない。
「谷河の狩り人、ここへ。」
「はい。」
控えていた狩り人が、ササッと近づき、一礼。
「見聞きしたこと、話せるだけで、良い。」




