8-73 それはナイな
他所の地方を支配するため、その土地に棲む美女を妻にする。大国主神の悪いクセ。
他界の女と結ばれる事により、他界の力を借りて支配者になる。という形になってマス。けれど・・・・・・嫉妬に狂う、須勢理毘売。
頭では解っています。大国主神には『中つ国をキチンと治める』という、使命が有ると。なのでジッと我慢して、悲しい嫉妬をするしかナカッタのです。
その嫉妬、オッソロシク激しい。先妻が子を残し、実家に逃げ帰るホド。
「そうだ! 木俣神。」
初婚の相手。愛し合い子を為したのに、今も別居中。八上比売が産み、出雲に残してくれた子。御名を木俣神。
使わしめ白兎は元、兎神の使い隠。今も隠の世と繋がっている。
「大国主神。まさか、とは思いますが。」
使わしめ稻羽、ジトォッ。
塩干しになった、あの兎サンです。今でも真っ白、フッサフサ。
八上比売が因幡へ御戻り遊ばす時、決めました。御子様で在らせられる木俣神ではなく、大穴牟遅神。大国主神の使わしめとして、出雲に残ると。
「使わしめ白兎は、兎神の使い隠。」
「いいえ、違います。」
即答。正しくは元、使い隠です。
「父のためなら、どんな事でも。」
母を悲しませ、重婚するような男に? ソコマデしますか、しませんよ。兎なら、後ろ足をタシタシしますね。
「稻羽よ。急ぎ、木俣社へ。」
「・・・・・・はい。」
お忘れですか? 私、八上比売の使い兎でした。
隠の世に御坐す兎神、父なんです。私、末っ子でして。頼めば和山社に、使いを出してくれると思いますよ。会えれば、ですが。
「白兎さま。お久しぶりです、稻羽です。」
キュルン。
「これは坊ちゃん。御変わり、ありませんか?」
「はい。」
ニコッ。
そうですか。天つ国にも根の国にも、許しを得ずに大祓とは。いやはや、驚いた。
天つ国と根の国には、須勢理毘売から。隠の世には木俣神からと、御考えなのでしょう。大国主神は!
「稻羽、良く来てくれた。」
「木俣神。」
サッと平伏す。
えっ!『どんな事でも』って? それはナイな。因幡へ使いを出しても、隠の世へは行けないよ。閉ざされているからネ。
「どうだろう白兎。隠神にお会いするコト、叶うだろうか。」
「今は、難しいでしょう。」
「私もね、思いを届けようと水筋を辿った。けれど、届かなかったよ。」
井戸の神でも在らせられる、木俣神でもダメでした。それだけ固く、閉ざされているのです。隠の世は。