8-71 エッ、そっち?
隠の世が閉ざされても、黄泉平坂が開いていれば、和山社へ行ける。黄泉湖。根の国に繋がる、美しい湖を通れば良い。
山のように大きく、迷わない。清めの強い力を秘め、アッと言う間にピッカピカ。ザブンと潜れば肩こり、イライラも消え、スッキリ爽やか。
清く正しく朗らかな隠たちに、とても好まれる。
そんな湖に入れる隠や妖怪は、闇に飲まれるコトも、近づくコトもない。清らなのだ。闇に魅せられた隠や妖怪は、黄泉湖を目にすれば消える。
ただ見つめるだけで、清められてしまう。
黄泉湖を通れば、隠の世から根の国へ行ける。しかし根の国からは、隠の世へ行けない。行き来できるのは隠の世の許し札を持った、隠か妖怪だけ。
「まだか。」
「まだ戻らぬのか。」
一柱、また一柱、御隠れ遊ばす。和山社を頼ろうにも、隠の世は閉ざされている。人の世から入るには、隠の世の嶺を目指すより他ない。
しかし、それも難しい。行けないのだ。
「このままでは。」
「もう、力が。」
隠の世に頼るのは諦め、何とか。そう考え、気付き為さる。出雲に御坐す結びの神なら、この闇をと。
「・・・・・・ハァ。」
「大国主神。幸せ、逃げますよ。」
「溜息の五つや六つ、吐きたくもなる。」
噂には聞いていた。
人と妖怪の子が生まれた、隠の世に引き取られた。海を越えて来た魔物を食らった、響灘を越えた。中の西国へ来ただの、来るだの。
トンデモナイ生き物だ。
昼も動けるが、好むのは夜。生き血を啜り、骸を食らう。狙うは、他と違う力の持ち主。
腕の良い狩り人、カンの良い狩り人。祝の力を持つ継ぐ子や、巫に覡。
社の司、禰宜、祝は守られている。オイソレと攫えない、奪えない。だから守りが薄い者に、的を絞るのだ。
「鎮の西国から、国つ神が全て。なんてコトには・・・・・・ならぬ。」
キリリ。
「そうですね。」
使い兎、遠い目。
こわいコワイ怖い、恐ろしい。とんでもないモノが、中の西国に入った。響灘を越えた。思うように得られぬのか、出雲に入ったとの知らせは、まだ。
「申し上げます。」
キタノカ?
「出雲に、出雲に押し寄せました。」
キタノカ!
「何が、どれだけ。」
使い兎、クワッ。
「鎮の西国より使わしめが、ワラワラ集まりました。」
エッ、そっち?
隠の世へも黄泉湖へも行けず、思いが届かない。なら出雲にと集まった。
・・・・・・困った。
大祓を繰り返しても闇が渦巻き、広がり続けている。祓い清めなければ恐ろしいコトになる。なのに、打つ手が無い。