8-68 新生、早稲
耶万に滅ぼされた大国の一つ、光江。
生き残りは皆、奴婢になった。強いのには媚びるが、弱いのは虐げ、奪う。それが光江の遣り口。嫌なヤツらだ。
海の近くに在るから、遠くから攫って来る。狙われるのは若い女や、狩り人の子。舟で近づいて、サッと連れ去る。心が折れるまで虐げてから、どうするか決める。
「あのな、ヌエ。光江はエゲツナイし、キタナイぞ。」
「カツが言うんだ、違い無い。」
そんなトコに誰かを行かせれば、攫われ売られるだろう。させるか! 耶万が変わったように、早稲も変わったんだ。
「こんな足でも大臣だ、攫わないハズ。だからオレが行く。」
「ヌエ一人じゃ、行かせられない。」
「今の早稲に戦える男は少ない。もし今、攻められたら滅ぶだろう。ヒトとカツは残らなきゃ。」
分かっている。でも、嫌なんだ。シンは早稲を捨て、ジン兄は死んだ。残ってるのは、オレたち二人だけ。
頼むよ兄さん。臣としてオレを支えるって、言ったじゃないか。ずっとずっと、そばに居てくれよ。
「シギ。食べ物を出すのは、早稲だけか?」
「いいえ。浅木、大倉、大稲も出すと。」
「じゃぁ、浅木と共に行けば良い。」
カツがサラリと言って、ニッコリ。
「そうしよう、ヌエ。」
「そうだな。」
兄弟が見合って、頷いた。
「早稲も出すそうです。」
社の司が、ソッと伝える。
「そうか。なら、風見も出すか。」
腕を組んで、長がポツリ。
耶万ではなく光江に。というのが、どうも気に食わない。光江だぞ。耶万へ運ぶまでに、ゴッソリくすねる。そういうの、呆れるほど上手いんだ。光江のヤツらは!
他にも気になる事が。アチコチで子や、女が消えた。聞く限り水の近く。舟で近づいて攫うか、攫って舟に乗せるか。そんなコトするのは安、大野、光江。
安の生き残りは、どこかの国守が片付けたらしい。残るは大野と光江。采や悦もアヤシイが、川から離れている。
「送るのは、ウン。舟に乗るだけで良い。」
「はい。」
社の者ではなく、狩り人に行かせよう。
耶万に滅ぼされた国には、祝の力を持つ者は居ない。残らず死んだか殺された。だから今、外へは出せない。
早稲に居るのは、社の司だけ。狩り人、釣り人も少ないから、臣が出るだろう。
「急ぎ、狩頭を呼んでくれ。」
「実山も出すか。」
社の司から『大倉と大稲も出す』と聞き、長がポツリ。
「それが宜しいかと。」
舟で運ぶのは良いが、光江はマズイぞ。万十や氛冶が見張っても、ちょろまかす。横取り、横流しナドお手のモノ。
港なら加津にも有るのに、なぜ光江なんだ。
「割符を作ってもらおう。『断るなら出さない』そう、伝えておくれ。」
「はい。」