8-67 何とか出来ないのかなぁ
「分かってもらえて、良かった。」
ホッとした顔で、ヒト。
「耶万は広すぎて、万十と氛冶では支えきれない。だから社を通して、食べ物を分けてほしいと頼まれまして。」
穏やかな顔で、シギ。
「何とか出来ないのかなぁ、神様。」
・・・・・・。
「御坐すよね?」
畳みかけるヌエ。
神は御坐す。お守りくださる。けれど、あるのだ。出来る事と、出来ない事が。
「信じてるよ。早稲の神様は、食べ物の神様だろう? 婆さまから聞いた。」
早稲社を守ったのはフウだった。あの長が従ったのも、幼い時から言い聞かされていたから。孫も同じように、コンコンと。
三つ子の魂百まで。大切だヨ、幼児教育。
「オレだって信じてる。だから、こうして話し合う事に。で、どうだろう。」
「えっ。オレも信じてるよ、神様。」
兄弟に見つめられカツ、パチクリ。シギ、ポカン。
イヤイヤ。だって、そうだろう? 豊かなのは、神様が御坐すから。雨が少なくても夏が来なくても、風が強くても嵐が来ても、冬が長引いても、早稲だけ良く実るんだから。
山もさ、木の実とかキノコとか。獣も狩れるし豊かだぜ。川、近いし。子でも魚、釣れるし。どう考えても神様、御坐すって。
「人は送らず、食べ物を送る。というコトで、宜しいか。」
キリリと、軌道修正するシギ。
「オウ。で、誰が運ぶんだ。オレは残る。」
釜戸の裁きで、罰を受けた。
仕置場にて鞭たたき。痣だらけにしてから藁に、足を折って座らされた。釜戸山から噴き出した大きな石を、腿の上に積めるだけ積まれて。
夜は縛ったまま、火口へ吊るされた。これら繰り返し、六月。
生きて戻れたのはタマタマ。
鞭打ちや石積みで死ぬ事は、あまり無い。しかし吊るされ、生きて戻るのは珍しい。釜戸山の火口は広く、かなり揺れる。縄がプッツンして、ドボンしてもオカシクない。
ドボンやポイされなかったのは、殺してなかったから。もし、また攫えば・・・・・・。良くて、ドボンの刑。生きたまま獣谷へポイ、されるかも。
「歩けるぜ。けど罠張って、何とか狩ってんだ。」
「スゴイよカツ。オレは、まだ。」
カツは「早稲の他所の」人。繰り返し戦場に放り込まれ、生きて戻った兵で、狩り人。鍛えていたので、治りが早かった。
ヌエは長の倅。体を使って働くより、頭を使って働くのに向いている。それなりに鍛えていたが、カツとは比べ物にナラナイ。治りが遅く、まだ足を引き摺って歩いている。
「耶万社へは、『送るなら舟で』と伝えました。『それでも良いなら、長に聞いてみます』とも。」
「そうか。で、どこまで運ぶ。」
「光江までです。」
「なら、オレが行くよ。」
シギとカツの話を聞いて、ヌエが言った。
「エッ!」