8-65 飼うの?
『このまま真っ直ぐ進めば、川に出る』か。嘘かもな。
でもまぁ、今は信じよう。暫く歩いて出なけりゃ、木の上で過ごすさ。縄は有るし、犬を背負って登るくらい。
ガサッ、ガサガサッ。
「またか。」
矢を番え、狙いを定める。
シュッ、ストストッ。ドサッ。
「良いな、この山。イノシシもカノシシも美味そうだ。」
「ワン。」 ソウナンデス。
「ん?」
「クゥ。」 キコエル。
出たな、川。疑って悪かった。・・・・・・早稲から、そう離れてナイだろう。
「戻ったぞ。」
「ワン。」 ハジメマシテ。
日暮れ前、カノシシを担いで戻った。獲物を肩からドサッと下ろして、一休み。カツのそばには、見慣れない犬。
「に、肉。」
犬には目もくれず、育ち盛りが揃ってゴクリ。
早稲には狩り人が少ない。作物は良く育つし、川まで行けば釣れる。山に入れば、木の実やら何やら採れる。
獣は兎や鳥など、小さいのが多い。狩り場まで行けば、シシや熊も。
玉置と三鶴に攻められ、ボロボロになった。それから立て直し、何とかなった。とはいえ、食べ物が余っているワケではナイ。
大イノシシを狩ったのに、足りなかったのか。カノシシを前にして、ウットリしている。
早稲に逃げ込んだ人は皆、酷く痩せていた。死にかけた子を背負い、倒れ込む親。足を引き摺りながら、幼子の手を引く親。ドロンとした目で、助けを求める者も。
匿うのは一度。男は戦わされ、女は言えないような扱いを受ける。子も同じ。飢えて死ぬか、凍えて死ぬ。
とまぁイロイロ、広く知られた。それでも逃げ込んでくる。助けを求めて。
「おかえり、カツ。」
「オウ。おっ、ユユ。」
茹だるような暑さの中、やっと生まれたカツとセイの子。取り上げたのはシギ、名を付けたのはヒト。
お産は女の戦、男がシャシャリ出る場ではナイ。ではなぜ、社の司が呼ばれたか。叫んで暴れて噛みつかれ、産婆が逃げ出したから。
シギだって、はじめは断った。けれど、ヒトの顔を見て悟る。
引っ叩かれたのだろう、真っ赤に腫れていた。黙って見せた腕には、クッキリ跡が。折られる前に竹筒を握らせ、逃げ出したそうな。
「夕餉は肉だ、美味いぞ。ん? どうした、セイ。」
カツの足元で尾を振る、見慣れないワンコ。
「その犬。」
どこの犬。ってか、飼うの?
「引き取ったんだ、オレが飼う。」
「分かった。で、名は?」
「そうだなぁ・・・・・・、カナ。川みたいに、長く生きろよ。」
「ワン。」 ワカリマシタ。